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今昔
やがて今も昔になるんだろうかと、
八卦池のほとりでスカ爺は思う。
スカ爺は、八卦池を通して電脳の世界にアクセスできる
何を見ているのか、正確に知っているものはない。
怪獣の卵が眠っているなんて言う噂まで立つ。
そんな奇妙な池のほとりで、
スカ爺は考え込んだり、
八卦池を杖でかき回したり、
何かにうなずいたりしている。
今が昔になるということ。
それは進歩ばかりでもあるまいと、
スカ爺はそんなことを思う。
かといって何も変わらないわけでもない。
夢のようにうつろう世界があって、
命なんていうものは、そこに漂う靄のようなものかもしれない。
電脳も古いものになるのだろうか。
新しいものに、取って代わられるのだろうか。
時代がそう望むならばかまわない。
変わるもの変わらないもの。
流れの中で生き残るもの。
何が生き残るのか、それはスカ爺もわからない。
電脳というものが、古いものになったら。
シャンジャーはどうなるのだろう。
電脳娘々はどうなるのだろう。
そして、スカ爺はどうなるのだろう。
どうなるのだろうを並べ立てて、
スカ爺は首をかしげる。
八卦池は変わるまいと。
あえて変わることがあるとしたら、
電脳にアクセスする霊などが、
新しいもので保存されるような世界になるかもしれない。
命の保存。
膨大なデータを操る術。
そのシステムの下では、
無意識さえ統制されるかもしれない。
機械の神だろうか。
スカ爺はそんなことを考える。
神が計算のもとに人を裁くようになるのだろうか。
夢を裁く法律はない。
けれど、未来。
そういうことがあるかもしれないと、スカ爺は思う。
機械の神。
神とは何だろう。
霊体とは違うのか。
機械の身体を持っていて、それは生き物なのか。
生物の定義すら曖昧だと、スカ爺は思う。
今が昔になった頃、
もっと曖昧になるのではないかと。
スカ爺は八卦池をかき混ぜながら思った。
みんな、混沌なのだと。
ふっとそんなことを思った。