01
電脳塔


斜陽街一番街。
電脳中心という店がある。
斜陽街において、電脳を使うようなことがあれば、
電脳中心の主、電脳娘々が、
検索からハッキングから、さまざまのことをしてくれる。

電脳娘々は、
今、電脳の通信をしている。
相手は、シャンジャーという、
電脳超級風水師、だ。
すごそうだが、大したことないよと、シャンジャーはいつも言うのだ。

「それで、シャンジャー。バベルシステム?」
「うん、全ての言葉が通じるシステムらしいんだ」
「それで、バベル」
「まだ未完成だけどね」
「それでもすごい話ね」
シャンジャーのいうところによると、
バベルシステムは塔の形をとっていて、
その中にバベルの核のシステムがあるそうだ。
電脳娘々は、システムというか、核がどうこうは興味ないが、
すべての人間が言葉を気さくにかわせたら。
それはそれでいいなぁとは思った。

「ネットの仮想空間に、バベルの町はすでにあるんだ」
「へぇ、早いこと」
「たくさんの国の人が、実験に付き合ってる」
「実験?」
「うん、言葉のニュアンスの違いを、どう伝えるかの実験」
「成果は出ているの?」
「見に行ってみる?結構すごいんだ」

ふだん冷静なシャンジャーに似つかわしくなく、
バベルの町を見せたくてたまらない、子供のようなシャンジャーである。
電脳娘々は、そんなシャンジャーの面白そうなことに、のった。

「仮想空間よね。電脳体にシフトしていってからがいいかしら」
「そうだね、生体はまだ無理みたいだから、シフトよろしく」
「場所は?」
「向こうにいったら転送アドレスで呼ぶよ」
「よろしく」

電脳娘々は、歯医者にあるような、ゆったりした椅子に腰かけ、
ゴーグルをかけると、呼吸を一つつく。
電脳娘々の身体を、
コードたちが繭を作るようにゆっくり回る。
何かがつながるような感覚。
色彩が目の前で破裂するような感覚。
五感がデジタルに変わっていることを確認する。
電脳娘々は電脳世界にアクセスをした。


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