02
砂漠
新しい朝が来た。希望の朝だ。
ラジオから流れる歌。
どこのラジオ局だかは知らないけれど、
健全なこの朝の歌および朝の体操が、
螺子師は気に入っていた。
体操を一回通してやって、
今日もいい一日が始まるだろうと思ったところに、
「やあ」
螺子師の店にいつの間にかやってきてくつろいでいる、
商売敵というかなんというか。
とにかくいるのは螺子ドロボウ。
螺子師は無言で十字レンチの大きいのを構えた。
今日こそぼこぼこにして、ドロボウなんてできないようにしてやる!
と、思った、のだが。
一枚の紙が、それをひょいとさえぎった。
「まぁ、見てよ」
螺子ドロボウがつきつけたと理解する前に、
目の前にある紙に目を通す。
「…サーカス?」
「そう、経由する扉も多くないしさ、ちょっと遊びに行かない?」
「仕事があるんだ。断る」
「そんなこと言わないでさー」
螺子ドロボウはなぜか食い下がる。
「チケットをペアでもらったんだよー。ねーってばー」
「ペア?」
「うん」
「ほかの誰かと行けばいいじゃないか」
螺子師は当たり前のことを言う。
帰ってきた答えは、
「友達は君しかいないんだよー」
螺子師はそこで、キレた。
「ドロボウなんてしているからだ!大体、誰が友達だ!」
怒鳴る。
それでひるむ螺子ドロボウではない。
「とにかく、友人なんだから、喜んでよー。ねー」
「誰がだ!」
「来てくれたら、しばらく螺子盗むの休むからさー」
螺子師はその言葉に、ピタッと止まった。
「二言はないな?」
「え、うん。来てくれるのかな?」
「ペアチケットを下手に無駄にするよりはいい」
「ありがとー」
螺子ドロボウは喜色満面の笑み。
何にも企まない顔を、しばらくぶりに見た気がする。
「それで、サーカスはどこだ?」
「扉経由した砂漠。カラカラの砂漠でサーカスがあるのさ」