03
雪晶花


斜陽街番外地。
砂屋の店がある。
簾と風鈴が涼しげな、
和のような、または、どこかのアジアのような店だ。

砂屋の主人は、
円錐形の編笠か何かみたいなものをいつもかぶっている。
顔が見えないわけではないけれど、
国籍は十分わからない。

今日は、砂屋の主人は、
一つの石をしげしげと見ていた。
「雪晶花ですね」
どこかの客が持ち込んだその石を、
砂屋は雪晶花だという。
客はすでに去ってしまった後だけど、
砂屋はやっぱり、しげしげと石を見ている。
一説によると、
雪の化石というものでもあるらしい。
あるいは、
雪の花の化石という説もある。
これを砕けば、中から雪が、冬が、出てくるかもしれない。
あるいは、これは寒さを閉じ込めた卵かもしれない。
きらきらと雪の破片の塊のようなその石は、
花という感じがあてられるだけあり、
とても美しい、石だ。

もう一つ、この石に関して噂があるのが、
寒いと言ってはいけない、極寒の国があり、
そこで、人々の寒さを表す言葉がすべて石になったという説。
言葉。
言葉が石になるものだろうか。
美しい言葉、寒さを隠した言葉の石。
寒いこと、雪があること、氷が冷たいこと。
全て言葉にできなかったその国は、
いったい何が話されていたのだろう。

「砂にはしないでおきましょう」

砂屋はその石を、砂にせずにそっと飾ることにした。
売り物にするには、どうにも砂屋自身が許せない。
これは売るものではなく、砂にするものでもなく、
砂屋に会いに来たものかもしれない。

斜陽街でないどこかの、きれいな石。
思い遥かに、雪晶花はそこにある。

風鈴が、ちりんとなる。
涼しげな、斜陽街番外地の砂屋である。


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