04
勇者


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

アキは勇者を目指している少女だ。
幼いころから、勇者になるべく、
鍛錬は欠かさず、善行に励み、
何よりも勇敢であれと、自分自身に言い聞かせてきた。

この国は、賢帝と何人かの賢者でおさめられている、
平和な国だ。
人々は日々の実りに感謝をし、
賢者たちは人をよき方向に導き、
賢帝は、そんな国を民を、心底から大切に思っていた。

さて、この国にどうして勇者になりたがるアキのような少女がいるのか。
それは、黒の山という、国の北にある山。
そこには魔王がいるとされている。
魔王は、邪悪なものとされ、
魔王が世に解き放たれてはいけない。
そういうわけで賢帝と賢者は、
魔王は黒の山に閉じ込めた。

アキは思うのだ。
やっつけてしまえばいいと。
勇者になって、やっつければ、本当に世界が平和になるのにと。
アキは純粋すぎる。
アキはまっすぐすぎる。
そのアキが振るう剣には一転の迷いも曇りもなく、
アキの評判を聞きつけ、見に来た賢者の一人をうならせた。

賢者は言う。
「私たちは、言葉で魔王を閉じ込めているにすぎない」
「ことば?」
「今、魔王には剣も当らない。見ることもできない」
「なんで!」
「それが言葉の力だよ。魔王に力を与えないため、魔王を解放しないため」
「どうすればいいんですか?」
賢者はうっすら微笑んだ。

「透明なままでいてほしい。アキ、君の心が透明であれば」

そのあとの言葉を賢者は濁したが、
アキは、魔王をそうすれば倒せるんだと、大きくうなずいた。

閉じ込められた見えない魔王は、どうすれば救われるか。
見えない脅威を閉じ込め続けているこの国は、どうすれば本当に平和になるのか。
賢者は考える。
答えはまだ出ない。

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