05
火酒


斜陽街一番街。
酒屋の店はある。
酒屋は店主と弟子の二人で切り盛りしている、
斜陽街によくある小さな店だ。

酒屋の主人はインチキな関西弁をしゃべり、
トレードマークの釣鐘マントは、何かのこだわりがあるのか、
なんだかんだではずしているのを見たことがない。

さて、この酒屋の店主。
思いの染みついた場所から酒を造ることができる。
思いを瓶にくゆらせ、
やがてそれは酒になる。
弟子もできないわけではないようだが、
技術ではやはり店主の方がうまい酒ができる。

そんな酒屋が、どこかに行って酒を造って戻ってきた。
卸すのはたいてい一番街のバー。
一つ一つにどんな場所だったとか、
どんな思いがありそうだったとか、
物語をつけてバーのマスターに選んでもらう。
その物語は酒屋が感じたものでもあるだろうし、
でっちあげかもしれない。

そのうちの一つの酒を、
バーのマスターはじっと見る。
「火酒やな」
「ウォッカでしょうか?」
「どこだったかは忘れたけれどな、言葉が反響しているとこやった」
「言葉が?」
「うまく言えんけどな、心に火をつけんばかりの強い言葉の場所」
「それで、火酒、と」
「そういうわけや」
火酒はそうして、酒屋の主人から、何本かの酒とともに卸される。

酒屋の主人はぼんやりと思う。
あの場所はなんだったのか。
そして、言葉が酒になることもあるものだろうかと。

その酒屋の主人の前に、火酒のカクテル一つ。
「お試しになられては?」
酒屋の主人は、にかっと笑った。
「おおきに」

強い言葉が、心に火をつける。
それはまるで、がんばれという言葉を力いっぱいかけられているようだ。


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