06
野太刀
斜陽街一番街。
ヤジキタ宅急便屋がある。
品物を受け取り、届けるのが仕事のシンプルなものだが、
トラブルに巻き込まれることもたまにある。
ヤジマという女性も、相棒のキタザワという男も、
外見に似合わず割とタフである。
彼らが斜陽街に来る前に何かあったらしいけれど、
荒事を繰り返してもへこたれない。
芯の強い宅急便屋である。
さて、今回届けることになった品物は、
野太刀である。
調べてみると、大きな太刀の一種であるらしい。
キタザワはそれを受け取り、いつものように書類っぽい手続きをする。
割とこの男はこれでいてマメだ。
そして、届けに来た依頼人が、面をかぶっていたこと。
それをヤジマに話をして、
「面?」
と、ヤジマは問い返す。
「そうです。ええと、能面みたいなの」
「へぇ…それは大層、まともな届け物じゃないな」
「まぁ、俺たちで届ければ大丈夫ですよ!」
「根拠薄いな」
ヤジマが切って捨てると、キタザワは叱られた犬のようにしょぼんとする。
「まぁいい。それで、依頼人の名前はなんて書いてある?」
「翁、だそうです」
「おきな、か。じじいの面をかぶっていたのか」
「そうです。で、届け先は…」
届け先は、野良狗。
何某の扉の向こうの、狗の面をつけた男。
「ところでキタザワ、野太刀は抜いてみたか?」
「いいえ、こわくて」
「それがいい。何か呪いがかかってないとも限らない、用心に越したことはない」
「そうですね」
二人は荷物としておいてある野太刀を見る。
禍々しさはないようにも見えるが、
あるいは、野太刀はまだ眠っているのかもしれない。
とりあえずの布を野太刀に巻いた。
この布も神が織ったといういわれのある布だ。
それなりに護ってくれると信じよう。
荷物はキタザワが持って、彼らは届けに出かけることとなった。