07
無声
羅刹は、殺し屋のようなことをしている、
生きる気力をもらって、意のままに殺す。
そういうことをしているのだが、
最近、羅刹は少しずつ、人間めいてきている気がする。
そんなことを言うのは、大体、洗い屋の女性で、
羅刹の髪を洗ってあげながら、
ぽつぽつと羅刹が話すことに耳を傾け、
ああ、羅刹君も成長しているんだな、
などとうれしく思うのである。
そんな羅刹であるが、
ときどきふらりと出かけることがある。
帰ってこないことはないし、
いってきますも、いってらっしゃいもない。
本当に、ふらっと出かける。
何も言い残さないのはいつものこと。
洗い屋の女性もそれをわかっていて、
あえて特別な言葉もかけない。
今回も、そんな感じでふらりと出かけた。
羅刹は五感が割と鋭敏にできている。
小さな音も、匂いも、
いろいろなものを生きるため、殺すためにとがらせてきた。
疲れたわけではない。
けれど、羅刹は音のない方へと歩いて行った。
斜陽街の中なら、目を閉じていってもわかる。
羅刹は五感を意識して閉ざす。
歩く感覚もおぼろに。
誰も守っていないけれど、
不安は不思議となかった。
どこに向かっているかはわからない。
けれど、感覚がぼんやりした方に、羅刹は歩いて行った。
不意に、何かにつまづいた。
受け身をとることも忘れて、倒れて、水の中へ。
羅刹は水の中で目を開けた。
サングラス越しでもわかる、斜陽街とは違うキラキラした水の中。
浮かび上がって、
羅刹はあたりを見回した。
感覚を閉ざしていたら、
やはり、どこか斜陽街でないところに出たらしい。
白い空、白い町。
声のない町だ。