08
会話


斜陽街番外地。
探偵事務所がある。
ここの探偵は、勘が鋭い。
勘でたいてい解決してしまう探偵だ。
よそはいろいろと調査するのかもしれないけれど、
ここの探偵はそうだ。

ただし、斜陽街が斜陽街であるように、
探偵も、奇妙なことによく巻き込まれる。
勘の赴くままに従い、歩くと、
何か、説明しづらいことが起きたりする。
勘はすべてを理解しての能力ではない。
だから、探偵はこの能力が好きだし、
今日も勘の赴くままに歩く。
何が起こるか、わからないけれど、こっちに向けて。
そういうノリが探偵は好きだ。

この探偵には助手がいる。
依頼人に茶を出すこと、
暇なときに本を読むこと、
それから、過去の事件を彼なりにまとめること。
仕事は多くないけれど、
あまり文句も言わずに、仕事をしている。

さてこの日は。
助手は茶の葉を買いにちょっと出かけていた。
探偵はぼんやりとしている。
会話のない空間。
それを想像して探偵はため息を一つついた。
一人なら会話がないのは当たり前だけど、
無声空間ってどんなものだろう。
逆もまたありうるのだろうか。
会話の濁流のような…
そこまで考えて、助手が戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、ん?何かの紙か?」
「隠し事できませんね。電波局というものがよその町にあるらしいんです」
「へぇ…」
「何をしているかはわからないんで、パンフレットをもらってきました」
「電波局に行ったのか?」
「いえ、いつものお茶屋さんに置いてあったので」

探偵はそこまで聞いて、
席を立って、ハンガーにかけてあるクリーム色のコートを羽織る。

「勘が呼んでる。ちょっといってくる」
助手もなれたもので、
「いってらしゃい」
と、返した。

会話の阿吽は、いつものことである。


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