14
賢皇帝
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
アキがいつものように鍛錬に励んでいたある日のこと。
賢皇帝からの使いの者が来た。
使いの者が賢皇帝の文らしいものを読むに、
アキを正式な勇者にするべく、
中央都市で勇者の儀を執り行う。
勇者になったあかつきには、
魔王討伐隊の一員として、その腕を振るってもらう。
早く中央都市に来られたし、
とのことだ。
アキはうなずいた。
「旅の支度を整えましたら、すぐにでも」
と、アキは答えた。
そして、もともと少ないアキの荷物をさっさとまとめると、
アキは中央都市に向けて旅立っていった。
この帝国は緑に満ちている。
アキはそう思う。
不安を抱えさせる魔王がいなければいいのにと、
アキはそう思うし、
なんでやっつけないんだろうかと思う。
中央都市の宿泊施設にアキは泊り、
勇者とはどうあるべきかを考えていた。
いつの間にか夜になり、
アキは眠ろうかと思った。
ノック、2回。
「誰?」
アキが尋ねると、勝手にドアが開いた。
フードをかぶった人が入ってきて、
後ろ手でドアを閉めた。
「すまない、隠れてきたんだ」
フードを外せば、それは遠目で見たことのある賢皇帝。
「一度話をしてみたかったんだ、勇者になりたいという、アキ、そなたと」
皇帝が口調を砕いてくれているのがわかる。
アキは精一杯緊張するのを砕いた。
「今夜だけ、友でいてほしい。明日には皇帝と勇者という身分の隔たりが出る」
「はい」
「さて、何を話そう。そうだな、昔、龍の力で滅んだ国があったという…」
賢皇帝はさまざまの話をアキとした。
アキもそうだが、賢皇帝も、
友がほしかったのだと、この夜に思った。