16
野良狗


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

ヤジマとキタザワは、
扉を開いて別の町にやってきた。
まず最初の印象は、静かで、
次に、月の明るい町だと感じた。
大きな月が満月だ。
建物はどうも和の物らしく、
抜けていく風の音から、竹林が近いらしい。

虫の鳴き声がかすかにする。
暗くて見えにくいけれど、
足元は土の道なのだろう。
アスファルトの感触ではない。

キタザワが、何かに首をかしげた。
「どうした」
ヤジマが尋ねる。
「こっち、と、野太刀が言ってる気がします」
月が明るいけれど、もっと暗い方向へ、
野太刀はそちらを指しているという。
ヤジマは少し考え、
「野太刀を信じよう」
と、一言言い、そちらを目指した。

より暗い道を彼らは歩き、
遠めにぼんやりと明かりが見えてきた。
ひとつだけども人影もある。
キタザワは明らかにほっとしたようだが、
ヤジマは気が抜けなかった。
闇の中には何がいてもおかしくはない。
言葉の通じない、何か、が、いても。

歩いていけはれ明かりは人影の持つ提灯で、
「あの」
と、キタザワが声をかければ、
提灯の明かりで面がはっきりと浮かび上がった。
狗の面だ。

「野太刀、お届けにきました」
キタザワが野太刀を差し出す。
「あなたが、野良狗さん、だね」
ヤジマが問えば、野良狗とよばれた面の男は、深くうなずいた。

夜の闇は深く。
提灯の明かりは頼りなく。
野良狗は野太刀を受け取った。
そして、
「確かに」
と、男の声で一言しゃべった。


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