17
静寂


羅刹はどこかにやってきた。
先ほど、何かにつまづいて落ちた水は、
どうやら水路のものらしい。
とりあえず、水路から上がり、
先ほどから見えていた、白い町を歩くことにする。

空も白。
建物も白。
静かな町。
感覚を閉ざしてやってきた町。
扉を開けた感じはしなかったけれど、
どこか、別の町だということは確かだ。

人が、ポツリポツリいる。
服はやはり白で、
目立たないように、よりも、
白から発生したものに思われた。
町も人もみんなみんな。

羅刹は自分の姿を見て、苦笑いした。
いつものように黒づくめだからだ。
明らかに異質なものだし、
この町から出て行けと言われても仕方ないと思った。

まぁ、そうなったときはその時。
羅刹は服がいつの間にか乾いていることを感じる。
ここがどういう町かはわからないけれど、
排除しようという気配は感じない。

気配、そうだ。
なんとなくではあるけれど、
人の気配、音、風の流れ、
そういうものが、一つの流れになっていて、
一つ一つの小さいものを感じ取るのが難しいと感じた。
個人を越えた流れだろうか。
羅刹としては、初めての感覚で、戸惑うばかりだ。
ただ、この感覚を知っているという、羅刹の奥の羅刹が呟いている。

静寂の町。
誰もしゃべっていないということに、羅刹はようやく気が付く。
声が何一つ聞こえない。
音がないわけではないようだ。
それがこの町のルールなのかもしれない。
羅刹はとりあえず、しゃべらないことにした。
不便があったらどうするかは、後で考える。

羅刹は黒いスーツのまま、
白い静寂の町を歩く。
優しい気配がつつんでいる、
真っ白な町を。


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