18
電波渦


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

探偵は扉を開いた。
ついた先は、うるさい町だ。
こんなことは慣れているので、
探偵は町を適当に散策することにした。

まず、うるさい。
うるささは広告でも延々流しているのかと思ったけれど、
どうやら、みんながみんな、何かと会話をしているらしい。
町ゆく人は端末で、
電話ボックスはいくつもあって、
そのどれもが誰か使っていて、
アンテナや電線がそこかしこに乱立していて、
無線でアクセスできますのポイントには、
人が山ほどいた。

「こりゃ、電波が相当だろうな」
探偵はつぶやいた。
身体に感じるほどの電波ではないけれど、
感じるほどになってもおかしくはないなと思わせた。
電波の渦が起きている。
それは多分、探偵の妄想ではない。

探偵は、町のカフェに入って、アイスコーヒーを注文する。
店員は作られた笑顔で応対して、
「無線チケットはご一緒にいかがですか?」
と、尋ねてくる。
「いいや、間に合ってる」
と、探偵が答えれば、
「ごゆっくりどうぞ」
と、おそらく、マニュアル通りにこたえる。

窓際の席に座って、
探偵はアイスコーヒーの氷をつつきながら、
町を観察した。
目を見て話している人を、探偵は探した。
これだけうるさいんだから、向かい合っておしゃべりしているのもいるだろうと。
しかし、アイスコーヒーの氷が溶けきっても、
目を見て会話をしている人物を見つけることはできなかった。

「こういう町もあるもんだなぁ」
探偵はつぶやく。
そのつぶやきを聞いているものはいなくて、
みんな、何かに向かっておしゃべりをしている。

電波の渦は、妄想でなく、
確実にぐるぐるとまわっている。

「ごちそうさん」
アイスコーヒーを一気飲みして、
探偵は店を出た。


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