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余興


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

砂漠で行われる、華麗なるサーカス。
しばし外が砂漠であることを忘れるくらい、
サーカスは見る者の心をわしづかみにした。
美しく、ハラハラして、そして喝采を送る。
最高のサーカスだ。

螺子師もいろんなことをしばし忘れた。
隣にいるのが螺子ドロボウであることすら、しばらく忘れた。
それほど夢中になった。

サーカスの舞台となるテントでは、
おどけたピエロが大きなセットの後片付けをしていた。
ピエロメイクをしていない大道具係が片づけをして、
ピエロはもっぱら、おどけて間を持たせているのだけれど、
さすがプロ、笑いをちゃんととっている。
しかし、大道具が何か手違いがあり、
どうにもこうにも片づけられない。
どうしたんだろう。
何か引っかかっているらしい。

螺子師もおかしいなと思い始めたその時、
ピエロの前に、見覚えのある人影がすっと現れた。
螺子ドロボウだ。

螺子ドロボウは大道具現場にちょっと近寄って、
ピエロと何か会話のようなそぶりをして、
指を3本上に出してみせる。
次に2となり、1になり、ゼロになったその時、
大道具がばらばらに壊れた。

壊れた大道具は、
大道具係が手早く片づけをし、
サーカステントでは、次の催し物が行われようとしていた。

螺子ドロボウは涼しい顔して戻ってきて、
「余興ですよ」
と、螺子師に告げた。
螺子師は不満だったが、
「あとで螺子を戻しに楽屋に行きましょう。次の出し物も始まりますよ」
螺子師は、とりあえず咎めることはやめた。
それこそ、余興に対して野暮だと思った。


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