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空間


斜陽街番外地。
扉屋が店を構えている。
扉屋は扉を作っている。
売っているわけでなく、ただただ作っている。
ここの扉は空間をつなぐことがあるらしく、
この扉屋から、斜陽街からさまざまの町に行くことができる。

今日も、扉屋の主人は扉を作っている。
今日の素材はなんだろうか。
少し前は金属だったし、
その前は木製だったし、その前は…
結局、なんでもありなのかもしれない。

「おじゃまさん」
言いながら、斜陽街の路地につながった扉から、
誰かが入ってきた。
近所で店を出している、鳥籠屋のおばさんだ。
扉屋の主人は、ちらと顔を向けて、
それからまた、扉づくりに再び没頭。
鳥籠屋のおばさんも慣れているのか、
それ以上を求めようとはしない。

鳥籠屋の鳥かごは、
使うと戻れるのだという。
どこに戻れるのかは人それぞれだけれど、
戻れるどこかに人を戻してくれるのだという。
おばさんも、それ以上のことは説明しないけれど、
使ったと思ったら使ったということであり、
使ったら、戻れるのだという。

鳥籠屋のおばさんは、
扉屋の作業の隣に、皮のむいてある果実を置いた。
「たまにはなんか食べなさいな、おいしいよ」
おばさんは言葉をかける。
扉屋は、作業の手を一時止め、
果実に手を伸ばす。
みずみずしい小さな音がして、次に、
「うまい」
と、扉屋が呟いた。

空間をつなぐ職業。
扉屋と鳥籠屋と。
彼らのいる空間は、彼らがいる空間は、
人が思うほど言葉に満ち満ちてはいない。
職人には、過ぎた言葉は必要なく、
最低限通じれば、それでまた安心できる。

静かな空間。
扉屋の主人の作業の音だけが響く。


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