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端末
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
探偵はやかましい町にいる。
情報の氾濫が、
視覚化しているような感じだなと思う。
そう思った後、少し違うかなとも思う。
情報というより、
もっとプライベートなものが、
町いっぱいに流れている気がした。
どうしてそう感じるのか、
探偵は通りに置いてあるベンチに座って観察した。
コーヒーショップにいた時のように、
誰も目を見て会話をしている人はいない。
端末を介して、会話をしているらしい。
思うに端末は無線だし、
電波に乗って誰かと会話しているのだろう。
歩きながら、何かを待ちながら、何かを食べながら、
端末を使って会話をしている。
探偵は大体この町のうるささのもとを理解する。
みんな端末で話している。
探偵の感覚では、
古い感覚なのかもしれないけれど、
電話や端末の会話というものは、
プライベートなことだ。
そのプライベートな会話をいうものが、
携帯型端末をみんなで持って、
町中を、みんなの部屋というていで会話している。
家にあるはずの自分の部屋というものが、
家を飛び出し、町中を部屋にしている。
表現があっているかはわからないけれど、
町はみんなのプライベートルーム。
公共というものが死語になっているかもしれない。
プライベートの会話は、
電波に乗ってどこかにいる誰かのもとへ。
ここにいない誰かに。
この町のごちゃごちゃのうるささは、
誰も片づけない部屋に似ていると探偵は思った。
物が出しっぱなしになっていても、
自分が取り出すときに分かればいい。
特に片付けしなくても、
そう、端末さえあればいい。
電波に乗ったプライベート。
端末は多分何より大切だろう。