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浮言葉


本屋の琴乃は、山ほどの本を並べて、
ことのは堂の奥を整える。
奥は琴乃の執筆スペースの予定で、
机と椅子があればいいかと思っているらしい。
ことのは堂のほとんどを本で埋めて、
琴乃は本の山の中にちょこんといる。

琴乃は、ある程度整った山ほどの本の中で、
目を閉じて、深呼吸をする。
琴乃の中でイメージが生まれる。
それは、
琴乃の周りを、浮かぶ言葉。
イメージの中では、
琴乃の周りを言葉が浮かび、視覚化される。
流れる文章、転がる単語。
琴乃は目を閉じたまま、
イメージの中の言葉を手に取る。
言葉は糸にでもかかったかのように、
つるりと釣り上げられる。
琴乃は、イメージでとらえた言葉を、
手の中に収める。

そして再び、ことのは堂の奥の間。
椅子と机だけがあるその部屋に、
琴乃は段ボールから紙を出す。
原稿用紙らしい。
それから、筆記用具らしいものを出して、
先ほど言葉を捕まえた手から、
筆記用具に言葉を流す。
琴乃の手から、物語が生まれる。

琴乃はこうして物語を書く。
浮かんでいる言葉を捕まえて、
筆記用具に落とし込む。
浮いている言葉が見えるのは、
珍しいのかどうなのかはわからない。
けれど、こうして言葉を紡ぐのは大好きだし、
言葉に形を与えるのは、病みつきになる。

執筆する琴乃の周り、
浮言葉が浮かんでいる。
言葉に意思があるのかは、わからないけれど、
生まれるのを待っている命のように見えなくもない。
琴乃は言葉を捕まえる。
物語はこうして生まれ、
ゆくゆくは本になるのかもしれない。


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