30
白城壁


妄想屋の夜羽は、言珠を手に、
旅をつづける。
この言珠のあるべきところに。
夢の中のように、
夜羽はいくつもの町を通り過ぎる。
誰も夜羽に注視する人はいないし、
たくさんいる人と同じように、
言葉を交わすことなく、通り過ぎる。
影のように、誰でもない何かのように。

夜羽は町を行く。
ここは言葉が飛び交っている。
何という町かも知らないし、
たくさんある町と同じだなと感じる。
言珠はどこにあるべきなんだろう。
夜羽はそれだけを問いかけて歩く。

歩いていると、
その町に言葉が集中している場所を見つけた。
夜羽の感覚では、
そこに言葉が集まって、
また、言葉が放たれる感じに見えた。
何という施設かはわからない。
言葉が集まるのがわかるなんて、
そんな芸当が自分にできただろうかと、
夜羽は自問する。
思うに、言珠のせいかもしれない。
言葉が力を持つこともままある。
言葉の流れが見えることもあるかもしれない。

夜羽は鍵もかかっていない施設に入る。
ドアを開け、歩くと、施設には男が一人。
大忙しで何か機械をいじっている。
夜羽にはわからない機械だ。
男はある程度機械をいじり、
ため息を一つ。
「で、何の用だい?」
男が振り返って尋ねる。
夜羽のことはわかっていたらしい。
「この言珠の行き先を探しています」
夜羽が答える。
男は考え、
「白い城壁に囲まれた、静かな町」
「静かな」
「そこにそういう石があるという。電波で聞いたよ」
男は大きく呼吸を整え、
「それじゃまだ仕事があるんだ」
と、また、機械をいじりだした。

夜羽は一礼してその場を辞した。


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