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若女
それは電脳世界の話。
電脳娘々とシャンジャーは、
バベルシステムを内包した塔を歩く。
解析すればきっと、
大量の言葉で積まれた塔に違いない。
言葉、思い、知識、言語。
それがプログラムで一つの線に結ばれる。
言語の違いでわかりあえなかった者も、
理解して、お互いを尊重できるかもしれない。
それは、ただの理想かもしれないけれど、
バベルシステムは、
その理想に近づくべく、
塔にプログラムを積んでいる。
ふと、電脳娘々は、人影に気が付く。
誰だろう。システムエンジニアだろうか。
電脳娘々は、その人影に近づく。
それは子供だ。女の子、らしい。
巫女のような和装をしている気がする。
近づいた電脳娘々に気が付いた子供は、
顔を向ける。
その顔は、能面だ。
たとえでなく、能面をかぶっている。
電脳娘々は、能面のデザインを検索する。
たしか、能面はデザインごとに名前や意味があったはずだ。
「若女」
ざっと検索して、そういう能面であると出た。
少女の体格のこの子供に、
若女の能面は少しちぐはぐして見える。
もっと、お祭りの安いお面の方が似合うような気もした。
巫女のような和装ではあるが、
能面より、張り子の狗の面などが似合うような気がする。
「君は誰?」
シャンジャーが問いかける。
能面の少女は答えない。
「しゃべれないんだね」
電脳娘々が言う。
続けて、
「そうだね、名前もないんだね」
電脳娘々はちょっとだけ考え、
「シズカで、どうかな」
と、名前の提案をする。
シズカと名付けられた少女はうなずく。
「うれしいんだね、よかった」
電脳娘々が微笑む。
シャンジャーは置いてけぼりを食らう。
シズカの顔を見ても、
能面である以上の情報は読み取れなかった。