33
世界樹
斜陽街の二番街。
小さな花術師の店がある。
花術師はおばあさんで、
植物のことなら種から苗からそれこそ花まで。
なんでも任せられるプロだ。
花術師のおばあさんは、
御伽噺で聞いたことのある、
とある植物を、一度、見てみたいと思っている。
それは、世界樹。
世界の中心にあるとも、
世界を支えているともいわれている。
いわゆる巨大な樹木。
そんなものがあるのならば、
一度見てみたいと思っている。
それは何という種類の木が、
何千年かけて得た姿か。
それを考えるのが野暮なほど大きいのか。
おばあさんの膨大な植物の知識をもってしても、
計り知れない木なのか。
おばあさんは思う。
この年になっても、
わからないことがあるのは素敵だと。
生きているうちに世界樹を見たい。
おばあさんは世界樹の手触りを知らない。
世界樹という御伽噺の言葉しか知らない。
おばあさんは、世界樹を言葉でしか知らない。
そう、言葉。
言葉で伝えてきたもの。
誰かが世界樹というものを空想して、
みんなで伝えてきたもの。
世界を世界樹が支えている。
その世界樹のイメージは、
世界樹を伝え聞いた、みんながそれぞれ持っている。
おばあさんは思う。
世界樹は、
みんなが持っている言葉で作られているかもしない。
御伽噺を種にして、
想像で大きくなる木。
世界を支えているのは、
言葉かもしれない。
おばあさんは目を閉じて、世界樹を思う。
いつか、世界樹を見てみたいものだ。
まぶたの裏でなく、
きっちり目を開いて。