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聖域
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
勇者アキと、仲間たちは、
賢者を探した。
魔王を言葉で封じている賢者。
その賢者に会って、
魔王をどうすれば倒せるかを聞かないといけない。
魔王がいては平和はない。
アキはそう信じている。
いくつかの山を越え、川を越え。
町や村で話を聞いた。
そして、深い山に囲まれた村に、
言葉の聖域というものがあって、
そこに賢者がいるという情報をつかんだ。
アキたちはそこを目指した。
季節は冬。
魔王を倒すのは一刻も早く。
やや無茶な行軍ではあったが、
アキたちは山を越え、
村へとたどり着いた。
雪で静かな白い村。
言葉の聖域の約束事として、
認められた勇者一人だけが入れるという。
アキはそれにうなずいた。
アキは、村からさらに少し上ったところの、
開けたところにやってきた。
そこは、白く静かな何もない場所。
でも、アキは感じる。
ここにはすべてがある。
風の種類も、花のにおいも、おいしい料理も、
すべてがあると感じる。
「わかるかな、勇者」
聖域にたたずむ老人一人。
彼が賢者らしい。
賢者の言うことには、
この聖域には言葉がすべて集まっている。
けれど、聖域から言葉を持ち出すのは不可能。
魔王を倒せる自信があるのなら、
言葉の結界を破る、言葉の石、
言珠を探しなさい。
言珠は南の方、水の近い町にある。
「言葉は生き物じゃ」
「生き物」
「言珠は矛盾を抱えた存在。その矛盾が別の矛盾を消す」
アキはよくわからない。
「魔王を倒すならそうあれ。まっすぐな勇者よ」
聖域にはすべての言葉があるのに、
アキには理解できないことばかりだった。
矛盾とは何だろうか。