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無痛


羅刹は町を歩く。
白い静かな町は、言葉がない。
単純化された記号があるばかり。
言葉を知っている羅刹には、
それがひどく難しそうに見える。
それでも、
町は言葉による欠落などなく、
静かに満たされていると、羅刹は感じる。

言葉がないと羅刹は感じるけれども、
言葉の存在すら知らないこの街の住人にとっては、
欠落も何もなく、
これが普通なのかもしれない。

町の住民を見ていると、
静かなほほえみをたたえている。
そこから羅刹が思うに、
きっと、怒りも悲しみもないのだ。
少し町を歩いただけの羅刹の感想だけれど、
大きなずれはないだろう。

そう、言葉がなければ。
人を傷つけることもなく、
人を怒らせることもなく、
すべてが調和して、
心地よい微笑みが浮かぶようになるのかもしれない。

ここは、きっと。
町の人が何も言葉にしないから推測だけど、
痛みが全くない町なのだ。
血が流れることも、
苦しむことも、
心の痛みも、
そういったことの全くない町。

黒いスーツに黒いボウガン。
羅刹は異物だ。
その異物を取り除こうとせず、
この町は静かに、おそらくいつものように。
異物という概念がないのかもしれないし、
そもそも、排除という考えがないのかもしれない。

ここは疑うことを知らないのかもしれない。
町も住人も、みんなみんな。

羅刹は上を見上げる。
空は青でなく、
ドームのようなもので覆われた白。
包まれているのかもしれない。
ふいに、洗い屋の女性を思い出す。
包まれるという言葉は、
何だか洗い屋の女性を思い出す。

羅刹は自嘲気味に笑う。
赤ん坊や子供じゃないんだから。
それでも、洗い屋にはいろんなものを洗ってもらっている。

洗い屋が帰る場所の一つになっていることを、
羅刹は認めざるを得ないと思った。


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