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電波局
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
探偵はやかましい町を歩く。
道行く人は端末でみんなおしゃべり。
それは電波に乗って、ここからどこかへ。
電波に乗って、やかましい町に情報が氾濫し、
看板の広告も電波からだし、
何かのランキングといって表示されるのも、
電波に乗って、ここに情報が表示されている。
探偵は立ち止まる。
うるささを視覚化したような町の電波。
電波はどこで管理しているのか。
ちょっとだけ興味を持った。
探偵は深呼吸を一つ。
自分に慣れ親しんだ勘を、
呼び起こすような感覚。
一般的に言う集中。
自分の中から、勘を引き出す。
周りの騒々しさが、
一枚向こうに隔てられたような感覚。
探偵は、電波の行く先を見る。
それは何かの機能でもなく、
特殊能力かというと、そうも言いづらい。
端末があれば何でもできるのにと、
この町の住人からは言われるかもしれない。
それでも探偵は自分の勘を信じる。
勘はあるビルをさしている。
探偵はやかましい住民をすり抜けて、
ビルを目指す。
ビルの上に大きめのアンテナ一つ。
アンテナに、看板があって、
電波局と書かれている。
探偵はそこに膨大な電波が集まっているのを感じる。
多分あそこで管理されている。
ただ、気になることが少し。
電波局ビルは他の建物に比べ、
圧倒的に劣化している。
それでも、電波がそこに集まり続けているようだ。
電波が集まり続けて破たんしないか。
破たんしたらこの町はどうなってしまうのか。
もしかしたら、
ビルの中は高度な技術で、
最新の設備が整っているのかもしれないし、
探偵の思い過ごしなのかもしれない。
勘で正解を導く手段もあるけれど、
探偵は、電波局の中身までは保留にした。
電波の行き着く先。
それを見たいのは探偵の好奇心だ。
未知があるのはいつだって素敵なことだ。