40
在処


夜羽は言珠を持って旅をする。
長い旅なのか、それとも短い旅なのか。
夢路を行くような旅をする。
いくつもの町を越え、
森を歩き、川を渡り、
遠くに来たような気もするし、
気が向けば、
すぐにも斜陽街に帰れそうな気がした。

夜羽は、先ほどの町で聞いた、
白い城壁に囲まれた町に来ていた。
夜羽ははてと思う。
いつの間にこの城壁の中に入ったのだろう。
つなぎ目もなくこの町を覆っているようだけど、
そういうものなのかなと夜羽は思う。
自分がいると思えばいる。
旅をしたと思えば旅をしている。
夜羽がそこに行きたいと思えば、
夜羽はそこに行ける。
今回は、たまたま白い城壁の町まで旅をしたい、
それだけだったのだろう。

改めて、
白い城壁の街を見回す。
静かな町だ。
白い城壁、白い街並み。
その素材は、白い石。
確かに言珠に素材は似ている気がする。
ただ、少し意味が違うなと夜羽は思った。
言珠は言葉を凝縮している。
この町の白い石は、
もっと違う何かを守っている石のように思った。

人々は何も語らない。
音の少ない白い城壁の町。
何を守っているのだろう。
それは言葉にできるものなのだろうか。
それとも言葉では語りつくせないから、
そんなものが存在しない町なのだろうか。

夜羽は、ここではないと思った。
言珠がここでないと言っているのかもしれない。
夜羽はこの町を出て、また、旅しようと思った。
在処を探して、どこまでだって行ける。
言葉の可能性はいくらでもあるんだから。


続き

前へ


戻る