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水没


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

勇者アキ一行は、
賢者の言葉を頼りに南を目指した。
言珠。
それがあれば魔王の結界が解かれ、
魔王が姿を現すという。
姿がなければ、
いくら勇者アキ一行の実力があろうとも、
存在しないものとして、攻撃も当てられない。
しかし、結界の中にでも存在している以上、
人々の不安がなくなることはない。
存在しているのに存在していない。
賢者の言っていた、矛盾はそれだろうかとアキは思う。
そして、その矛盾を打ち破り、
この国に平和をもたらすのが、自分でなければいけないとも思った。
魔王を倒し、人々に笑顔を。
アキはまっすぐにそう思った。
その思いの端っこで、アキの心に小さなシミ。
そのシミは言う。
大勢の笑顔のため、何かを悪にするのは、正義かい?
アキはその言葉に目をつぶった。

勇者アキ達一行は、
水没した都市にやってきた。
この都市は、言い伝えによると、
大雨が降るように言葉が氾濫し、
過剰な言葉で沈んだらしい。
沈んだその都市を、年月かけて雨が覆い、
いつしか言葉と雨で沈んだ廃墟になった。
この都市の神殿に、言葉の凝縮された石があるという。
アキは旅の途中で聞いた話を頼りに、
神殿で石を探す。
水没した都市は、
静かで言葉も聞こえない。
言葉が大雨のように降った都市。
言葉が都市を滅ぼすのだろうか。
それは、魔王が存在し続けて不安を与えるのと、
どちらが恐ろしいことだろうか。
魔王は何をしたのだろうかとアキは思った。
恐ろしい存在としての魔王。
アキはそういわれて育った。

言葉にできないことをしたのだろうか。
アキは、魔王に尋ねてみたいと初めて思った。

アキ達は言珠を手に入れる。
これで魔王に挑める。
それは正義なんだろうか。


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