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幸福感
静かすぎるほど静かな町を、
羅刹は歩く。
白いドームに包まれて、
町の人たちは何の不安もないように見えた。
羅刹は、それもまた幸福なのかなと思った。
幸福とは、と、羅刹は思った。
羅刹の幸福はよくわからないけど、
この町は、幸福感に満ちていると羅刹は思った。
思うに、この町には欠けているものがない。
外を知る羅刹などから見れば、
何がないとか見えるものだが、
ここだけで生きている住人からは、
何もかもが満ち足りていて、
意思の疎通も、そこからくる争いも、
そう、言葉もいらないのだ。
すべてが満たされた場所。
幸福感で町が満ちて。
知らず微笑みが浮かぶような、
幸せの町。
その幸せがいつまでも。
いつまでも続くのがいいのかもしれない。
静かな町。
どうしてこんな町があるのだろう。
羅刹は斜陽街から、
どうやってここに来たのだろう。
斜陽街の扉をくぐった記憶はないし、
何かのきっかけに、
来てしまうことも、ままあるとして、
感覚をたどってどこかに来ることも、
たまにあるのかもしれない。
それは言葉で表現しづらい、
突然感覚に引っ張られてやってきてしまう。
羅刹は認めたくないけれど、
この幸福感に似たものを、
羅刹は斜陽街で持っている。
羅刹のそれと、
この町の幸福感。
この町の幸福感は、
一体どういう原理なのだろう。
言葉で説明できるものではないだろうが、
満たされた幸福。
それは、
幸福でないものから切り離されたような。
或いは、痛みや悪意を知らないような。
ここは何も知らない町なのだろうか。
町の形をしているけれど、
住人がいる形をとっているけれど、
ここは、斜陽街のような町とは、
違うのかもしれない。
羅刹は何となく思う。
この幸福感は、原始的な感じがする。