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水辺


夜羽は旅をして、
言珠のあるべき場所を探していた。
名前も知らない町を行き、
名前も知らない野山を行く。
花の咲く山もあった。
川のせせらぎを見たりもした。
どこもこの言珠のあるべき場所のような気もしたし、
どこも違うような気もした。
そして、夜羽はだいぶ遠くに来たなと思った。

夜羽は海岸に来た。
水辺には遺跡の石がごろごろしている。
ほろんだ都市なのかもしれない。
遺跡の白い石が、
海の中まで続いていて、
海の中でサンゴ礁の床となっている。
こうして、遺跡はサンゴに埋め尽くされるのだろうし、
長い年月をかけて、
文明は海に飲み込まれて終わるのかもしれない。

夜羽は水辺を歩く。
と、そこに、人が住んでいるらしい小さな家を見つけた。
文明が崩壊した後に住んでいるのだろう。
夜羽は興味を持った。
そして、家のドアをノックした。
「だぁれ?」
幼い少女の声。警戒心はない。
「旅のものです」
夜羽がそういうと、ドアは開かれ、
少女が顔を出した。
「ここはノゾミとジジのお家だよ」
「ノゾミちゃんかな」
「うん」
ノゾミは大きくうなづく。

夜羽は、言珠があたたかくなっているのを感じる。
そうか、ここなのか。
「それじゃ、ノゾミちゃん。いいものをあげよう」
「なぁに?」
「きれいな石だよ。きっとここに来るべき石」
夜羽はノゾミの手を取り、石を握らせる。
「ありがとう!」
ノゾミは大喜びする。
夜羽はそれを良しとした。
「それじゃ、帰るよ。ジジにもよろしくね」
「うん、ジジによろしくだね」
ノゾミがばいばーいと手を振る。
夜羽は見送られながら、
斜陽街へと帰ることにした。
きっとここがあるべき場所。
この言珠は、きっとここで生まれたのだ。
あるいは、
言珠を作った文明があったのかもしれないし、
あるいは、
ここは言葉の洪水でほろんだ文明かもしれない。
そして、言葉が引いて行った後に、
言葉の塊が残ったのではないか。
それが言珠ではないか。
夜羽はつらつらそんなことを考えたが、
帰るまでには忘れるだろうと思った。


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