51
歪曲
それは電脳世界の話。
電脳娘々とシズカ、そしてシャンジャーは、
バベルシステムの恩恵を受けた仮想空間を歩く。
電脳娘々とシズカは相変わらず、
会話が成立しているようないないような関係を続けている。
シャンジャーは置いていかれたなぁと思ったが、
周りを見てあることに気が付く。
仮想空間内には物質としての空気というものはないが、
シャンジャーは、空気がピリピリしていると感じた。
解析をしようとして、
そこまでしなくてもすぐに分かった。
仮想空間の住人が、ストレスを感じ始めている。
アバターがみんなイライラしているのがわかる。
空気が悪いのはこれか。
シズカが立ち止まり、
電脳娘々もようやく周りを見る。
シャンジャーはいらいらしている原因を耳から感じた。
言語がたくさん聞こえる。
それはおそらく、
この仮想空間で、ユーザーが設定している言語。
聞き取る方、話す方で一致していたそれが、
今、何らかの原因で一致せず、
言葉が通じず、あるいは、歪曲されて言葉が流れている。
何を話しているのかわからない、
聞き取る単語が歪んで聞こえる。
意思が通じないというのは、
何よりものストレスであり、
また、いつストレスから感情が爆発するかわからない。
バベルシステムで何かあったか。
このままじゃまずいとはシャンジャーは思ったが、
何をすれば劇的に直るものだろうか。
原因不明の言葉の混乱は、
隣人を他人とし、あるいは敵とする。
何とかできないだろうか、
伝説のバベルの塔のように、
このシステムを壊したくはないとシャンジャーは思った。
理解できない言葉が濁流のようにごうごうとなる。
言葉でほろぶのだろうか。
バベルの塔は、神の雷でなく、
言葉の洪水でほろぶのか。
それはあらゆる混乱を引き起こす。
手立てはないのか。
バベルシステムはここで終わるのか。