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探求人


ことのは堂を構えた琴乃は、
斜陽街がそうであるように、
本屋の女性と呼ばれるようになった。
たいてい職業で呼ばれる町。
本屋はそれを良しとする。
斜陽街の本屋。
自分があるがままにいられる場所。
執筆をし、本を読み、
本を仕入れ、町の人に本を勧める。
本屋と呼ばれるのは、このうえない賛辞だ。

いつから自分が言葉にとりつかれたかは知らない。
言葉を呼吸する生き物になった。
本屋は自分のことをそう思う。
言葉を用いて創作をするのは、
怪物が火を吐くのに似ている。
本屋はそう思う。
言葉で創作するのは、まず、言葉を使えないといけない。
そして、想像力を駆使して、
見たこともきいたこともないものを言葉で作る。
それは、存在しない怪物が、
他の生物ができない、火を吐くという行為。
想像して言葉を使えないとできない、
創作は火を吐くのに似ている。
本屋はそう思う。

本屋は今日も言葉を捕まえる。
言葉を捕まえ、本屋の中に嚥下し、
言葉は本屋の中で、荒れ狂う火を落ち着ける水となる。
本屋は創作の業火と、言葉の津波、それがせめぎあう存在だ。
本屋自身は和服の小柄な女性だし、
穏やかでにこにこしている。
それでも、内側には計り知れないものを持っている。

言葉を使いこなせることを極めたら。
それはいったいどうなるだろう。
本屋は物語を作り、読む。
それは言葉の探究。
学術でもなく、売るためでもなく、
本屋は言葉が好きで、
好きなもので囲まれたこの店が好きで、
そして、好きなものを知りたいと本屋は思う。
言葉のあるべき姿とは。
物語というものはどこへ向かうのか。
創作とはどうして生まれてしまうのか。
本屋は疑問の探究者。
言葉を探し続けている。

言葉のあるべき姿。
まだ答えは見つからない。


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