箱物語(仮)02


装備課によってきたルカは、
ヤンの回してきた車に乗り込んだ。
チーム・パンドラの箱の地下駐車場から、
車が順路どおりに地上の出口を目指す。
ヤンが運転をしている。
ルカは助手席で装備品の確認をしている。
「装備課もちゃんと点検してくれてるみたいね」
ルカはシンプルなダガーのような装備品を確認する。
続いて、濃い灰色のスーツのジャケットの下、
シャツとスーツの間に、心臓の辺りを覆うように、
掌サイズのプレートを仕込む。
プレートは、シャツよりも下の、身体に常時装着されている、
とある装置に反応し、
機械音を立てて、ロックされた。
「ヤン、つけといたら?」
プレートをセットしたルカから、ヤンのプレートが渡される。
ヤンは信号で止まると、
プレートを受け取り、同じように装備した。

「こんな風に制御するの、好きじゃないですけどね」
「しょうがないわ。制御しないと記録が暴走するわ」
信号が変わり、
ヤンは車を発進させた。

チーム・パンドラの箱では、過去の箱制御錠が標準装備になっている。
それは、心臓の鼓動をエネルギーにしている錠だ。
皮膚の上からではあるが、心臓を覆うように錠を装備、
その上から、現場に赴く際には、プレートのロックをかけて制御する。
プレートは、チーム・パンドラの箱の本部に現場状況を伝えるほか、
制御錠をつけていない一般人の過去の箱に、
パンドラの箱のメンバーが記録されないという特性を持つ。
実質、一般人には存在しないものになれる。

「なんか、存在しないものになるのと、本部に監視されてるようで…」
「過去の箱が暴走するよりはまし…そう思うことね」
「でも、制御錠をつけていても、暴走することがあるって…」
「バックアップとっていればそんなことは少ないわよ」
「少ない、ですか?」
「全ては過去の箱に記録をためすぎた所為、いっぱいになったら人は死ぬ摂理」
「摂理、ですか…」

車は5番区に向かっていた。
ヤンは過去の箱に記録された仕事の現場に向かって車を運転する。
ルカは自分のダガーのような装備品を確認し終えて、
小さな箱の付いた、グローブを確認し始める。
ルカの手にはめるには、グローブは大きすぎる。
ルカはグローブに付いた箱の設定を確認する。

「…ん、フォーマットされてる」
「設定は、いつものでお願いします」
「取り逃がすんじゃないわよ」
「わかってます」

運転しているヤンに代わって、
ルカはいつもの設定をする。
グローブに付いた小さな箱は、時々電子音を出して、表示を変える。
しばらくして、グローブに付いた箱は、ルカの納得する、ヤンの設定になった。
その間に、ヤンは現場に近い場所に車を停めた。

「できた」
ルカが箱つきグローブをヤンに投げて渡す。
ヤンは受け取り、右手に装備する。
「本部と交信できてる?」
「はい」
プレートの機能を確認して、車から降りる。
普通の街中の、普通の駐車場、
ただ、車があることは、一般人も認識はしている。
それでも、車の存在も、ルカとヤンの存在も、
一般人の過去の箱に記録されることはない。

ルカは箱を生やした一般人を見る。
群集というほど多いわけではないが、
この一般人たちは、多分、箱が生えていることを知らない。
いや、ヤンも見えてはいない。
それでもルカには、箱を生やした人間が行き交うのが見える。
それはルカの妄想だろうか?
目がおかしいのだろうか。
それでも、ルカには箱が見えて、
チーム・パンドラの箱は過去の箱の仕事をする。
ルカは雑多な考えを振り払った。

「現場に行くわよ」
ルカはダガーを持って走り出した。
ヤンがそのあとを追った。

濃い灰色のジャケットを羽織った二人の人影は、
誰の過去の箱にも記録されることなく、
雑踏の向こうへといった。


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