箱物語(仮)09


三人は戻ってきて、
装備課に装備を預けた。
プレートも外し、
ヤンなどはホッとしたようだ。

記録追跡課の待機室に戻ってきて、
シジュウを見つけたカラットは、
真っ先に駆け寄り、
「俺のすごい記録も作ってくれよ!」
などとシジュウに頼んでいる。
ルカはシジュウに報告をする。
シジュウはニコニコ笑いながら報告を聞く。
シジュウが報告をじかに聞くことは、やっぱりまれだ。
一通り報告を聞き終え、
「ご苦労様でした、皆さん」
と、シジュウは皆をねぎらった。

電子音のチャイムが鳴る。
「おや、待機終了ですね」
今、気が付いたようにシジュウが言う。
「では、装備一式は外すように。過去の箱制御錠は常に装備。プレートは外すこと。お家に帰るまでが仕事ですよ」
シジュウは遠足の終わりにように皆に言い、
この日は解散になった。

待機時間が終わって、
ルカは軽自動車に乗って、
とある小さな家を目指していた。
ルカは小さな駐車場に軽自動車を止め、
小さな家のチャイムを鳴らした。
「はーい」
と、男の声がする。
「あ、ルカじゃないか」
魚眼レンズで確認したらしい。
間をおかず、がちゃりと玄関の扉が開く。
人のよさそうな、背の高くない、眼鏡をかけた、エプロン姿の男が出てくる。
「…ただいま」
「うん、おかえり」
「タカハ、何か作ってた?」
「あ!火をかけてきてた!」
タカハと呼ばれた小柄のメガネの男は、あわてて台所に引っ込んだ。
ルカは少しだけ笑った。
そんなルカの足元に、黒猫が一匹やってきた。
「ナオキ、ただいま」
ナオキはにゃあんと鳴いた。
ルカは小さな家のとある部屋にやってくる。
一応、ルカの部屋だ。
そこに、ハムスターのケージが一つある。
ジャンガリアンハムスターが一匹、回し車を回している。
「ダイキ、ただいま」
ダイキは呼ばれたことに気が付いたのか、何かをねだるようにケージの前にやってきた。
ルカはダイキにビスケットを一つあげた。

ルカの部屋の扉がノックされる。
「晩飯できたよ」
タカハだ。
「今行く」
ルカはすっかり着替え、濃い灰色のスーツは、ハンガーにかけている。
ルカは、なんとなく、解放されたような気分がした。

「焦がさなかったんだ」
と、ルカは晩御飯を食べながら言う。
「俺も慣れました」
と、タカハは言う。
ルカは少し笑った。
タカハは優しそうな顔をして笑っている。
シジュウとは違うなと、ルカはなんとなく思った。
シジュウはいつもニコニコしているが、どこか底が知れない気がした。
タカハはルカにいつもニコニコしている。
なんだかあったかくてくすぐったい気がした。

ルカが食器を片付け、
タカハがその手伝いをする。
「二級電子箱技術士免許、取れそうな気がする」
「二級も取れれば、結構な職に就けそうね」
「俺だってやるときはやるさ」
タカハは屈託なく笑った。
「だから、職が決まって軌道に乗ったら…」
タカハはちょっと言いよどむ。
そして、
「同棲じゃなくて、ちゃんと結婚しよう」
真剣にそう言った。
ルカは真剣な言葉に洗い物の手が止まった。
「タカハ…」
何か言いかけたルカの唇を、タカハが唇でふさいだ。
「俺はルカを幸せにしたい。それじゃだめかな?」
「…タカハは…それでいいの?」
「それでいい」
タカハは断言し、ルカは…うれしくて…
…少し、泣いた。


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