箱物語(仮)10


カラットは、停止銃をはじめとした、
チーム・パンドラの箱本部の地下にある、銃の射撃訓練場にいた。
カラットの狙いは確かだ。
高確率で的をきちんと射抜く。

「カラット」
誰かが後ろから呼びかけた。
カラットは銃を下げ、振り向く。
シジュウがそこにいた。
「ある程度撃ち込んだら、待機室に来てください。停止銃と弾丸の仕様が変わりましたよ」
シジュウはニコニコ笑いながら用件を告げると、そのまま戻っていった。
カラットは、上機嫌になり、
それでもやはり正確に的を射抜いていった。
最後の一発だけ、少し外した。

記録追跡課の待機室にシジュウがいた。
隣にルカもいる。
「…カラットにそれをやらせるの?」
「ご不満ですか?」
シジュウは相変わらずニコニコしている。
そこへ、ドアをバンと開けて、カラットが飛び込んできた。
「停止銃が変わったって!?」
ルカはカラットを見ると、
自分の待機席に戻っていった。
戻りがてら、ちらとカラットを見た。
ルカは複雑な表情をした。
「今度の停止銃は、より、精度が上がっています。きちんと狙えば外すことはありません」
そこまではルカも納得している。
カラットも納得したようだ。
「弾丸の仕様は大きく変わりました。反応地点を正確に撃ち抜かないと、弊害が起きます」
「反応地点って…過去の箱の?」
「はい、そうです。本来、停止銃はこの弾丸が通常弾です」
「…」
「今まではどこを撃ち抜いても記録が停止する初心者向けの弾丸を使っていましたが…」
「初心者向け…」
「そう、ルーキーでしたからね。今度からはきちんと撃ち抜いてもらいます」
「…」
「訓練を見る限り、大丈夫そうでしたからね」
カラットは曇った顔をぱっと明るくさせた。
「ん、大丈夫!まかせてくれ!」
「はい、では、早速ですが…あ、ヤン、カラットと一緒に行ってくれませんか?」

シジュウから現場の位置を聞くと、
カラットとヤンは仕事に向かった。
「同族を作るのが好きなのね、シジュウ」
ルカはつぶやいた。
「何のことでしょう?」
シジュウはとぼけた。

ルカは電子箱に向かった。
ディスプレイを見ながら、
シジュウに出会ったときのことを思い出す。
ルカの目には、
シジュウは大きな箱の中にいるようだった。
みんなは箱が生えているのに、
この人だけ違うと思った。
「何であなたは箱の中にいるの?」
シジュウは笑った。
「あなたも特別なんですね」
「特別?」
「特別で同じなんです。箱が見えることも…ね」
シジュウからパンドラの箱に誘われたのは、それからまもなくだ。

…その日の仕事で、
カラットは過去の箱以外の場所を撃ち抜き、
追跡記録だけを捕獲すれば一般人に戻る人間を、
死に追いやった。

カラットは報告をする。
シジュウはいつものように聞いている。
「…俺は…人を…殺しました…」
「うん、その記録は届いてるよ」
シジュウはこともないように流す。
「俺は…こんなことをするつもりじゃなかった!」
カラットは机に激情をたたきつけた。
手を握り締め、唇をかみ締め…
うつむいたまま、しずくが落ちてきた。
シジュウはカラットの髪に手をやる。
「誰もあなたを裁きません」
「俺は…人殺しだ」
「追跡記録を持っただけで、犯罪者です」
「殺さない選択肢もあった…」
「結果、記録を捕獲できたのでいいのです」
シジュウはカラットの髪をなでた。
カラットはうつむいたまま、声を殺して泣いていた。

ルカは思う。
シジュウのもくろみは成功した。
カラットは特別なものになった。
シジュウがどういう理由で同族を作りたがるかわからないが…
カラットは、多分、シジュウの同族に染まりつつある。

それが、カラットにとっていいことかどうか…
そのことについて、ルカは考えないことにした。
所詮ルカも同族なのだから。


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