箱物語(仮)12


梅雨の明けたばかりの、少し暑い日。
ルカは同棲相手のタカハの家にいた。
タカハの作ってくれた、うどんをすすりながら、
タカハの近況などを聞く。

チーム・パンドラの箱では、
お茶ばかりすすっている気がする。
生きている気が、あまりしない。
だからこそ、こういった、
普通の食事、
普通の人間というものが、
ありがたく感じてしまうのかもしれない。

「ルカ!」
「あ、何?」
「聞いてたのか?」
「ごめん…なんだっけ?」
ルカは自分の考えに入っていたようだ。
うっかりタカハの話を流してしまっていたらしい。
「ん、最近電子箱を自作してくれって話が来てるんだ」

タカハは二級電子箱技術士免許を、とりあえずとってある。
もともと、電子箱に関しては器用なほうだ。
男としては、頼りなさげに見えるタカハだが、
電子箱の類、手先を使う類、
腕力等においては、ルカより上であるように思われた。
そんなタカハは、以前、ルカの電子箱を共同で作ってあげたことがある。
ルカがある程度作り、タカハはある程度のサポートを。
チーム・パンドラの箱の電子箱は、規格があるが、
同棲先では、いまだに規格外の、その自作電子箱を使っている。

「電子箱自作って…あたしのみたいなの?」
ルカはとりあえず、そう、聞き返す。
「んー、要求がむちゃくちゃなんだ」
「要求?」
タカハは困ったように話し出す。
「ええと、なんだ、ルカの仕事にかかわっちゃうんだけど…」
「仕事?」
ルカが再び問い返し、
タカハは心底困っているように話す。
「噂の、過去の箱と直結できるスペックで、通称・過去の箱の鍵をダウンロードできて…」
「え?」
「当然高いスペックがいることは、ルカもわかると思う」
ルカはうなずく。
過去の箱に直結できるスペック…というか、性能を要求されるとなると、
一般サラリーマンとやらの給料が、数ヶ月吹っ飛ぶ。
加えて、通称・過去の箱の鍵は違法だ。
どうも相手はそれを要求しているらしい。
タカハが困るわけである。
しかし、タカハはなおも続ける。
「それで、余ったパーツがあるだろうから、それを使え。余った電子箱があるなら譲れ…」
「なによそれ…」
ルカは唖然とした。
「俺だってそう思うよ。それを言ってきたのが、中学時代に同じクラスになっただけのやつ」
「ほぼ他人じゃない」
「そうなんだ」
「無視決め込みなさい。他人の犯罪の片棒担ぐことはないわ」
「まぁ、無視決め込んでるけどさ…なんだか、電子箱を自作すると、ただでいろんな記録が取り放題だと思ってるらしいんだ」
「そういうのを、バカって言うのよ」
「ごもっとも」
二人は話を終えると、
残りのうどんを平らげ、
ごちそうさま、と、挨拶して、片づけをした。

ルカは念のため、タカハから、その、依頼人(?)とやらの記録をもらって、
待機室の電子箱にちょっと入れておいた。

後日。
ルカが電子箱を使った際、
例の依頼人についての記録が、更新されていた。
更新された記録いわく、
他人の家から窃盗の罪で逮捕。
何を盗んだのか調べてみたところ、
電子箱のパーツやケース、挙句の果てにはディスプレイなど。
「勘弁してよね…」
ルカは、とりあえずタカハに被害が及ばなくてよかったと思うのと、
こんなバカが、過去の箱に触るから、仕事が減らないんだと思った。

ルカはバカの記録を消すと、
ジャスミン茶を入れに席を立った。
記録追跡課は、仕事になれば忙しいが、
暇なときもある。
ルカは、アイスジャスミン茶にしようかと考えていた。

夏も近いころの話。


続き

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