箱物語(仮)14


ルカは電子箱を覗き込んでいた。
最近、奇妙な事件があるらしい。
ルカはそれについて、チーム・パンドラの箱の、
データベースにアクセスしていた。

奇妙な事件というのは、
身元不明の人間が、妙に増えていること。
そして、奇妙な身元不明な人間は、
データベースによると、共通点がある。
生きている死んでいるの差はあるが、
総じて、過去の箱がない。
ルカは、身元不明人の画像を電子箱に映し出した。
箱の目だからわかる。
切り取られたか…
箱の残骸のようなものがあった。

銀色の端末に、着信。
ルカは端末から、着信した記録を受け取る。
そして、過去の箱に流す。
シジュウから、仕事のことだ。
「ヤン、カラット、仕事よ」
メンバーは濃い灰色のジャケットを羽織ると、
いつものように装備課に向かい、
指定の場所へ向かうこととなった。

ヤンの運転する車の中で、
皆がプレートを装着する。
「で、今回の仕事って?」
停止銃をもてあそびながら、カラットがたずねる。
「身元不明人のことは知ってる?」
「ああ…最近妙に増えている…」
ヤンが答えた。
カラットはよくわからないらしい。
「身元不明にしている、犯人を一般人に戻すこと。それが仕事」
「犯人わかってるんなら…」
「記録追跡課の仕事よ。カラット。犯人は違法な記録を持っている。回収作業よ」
「へーい」

車は、ある普通の市街地を目指し、
ヤンが適当な駐車場にとめた。
メンバーは車を降り、
違法な記録の反応を探した。
彼らはプレートをつけているので、一般人には認識できない。
一般人は、彼らに気がつかずに通り過ぎていく。
過去の箱を生やした人間が、
ルカのそばを通っていく。
何人も何人も。
ルカは注意深く、周りを観察する。
そして…
「いた」
ルカは小さくつぶやいて、走り出した。
ヤンとカラットが続けて走る。

ルカには見える。
いくつもいくつも、過去の箱をつなげた人間がいる。
それは、過去の箱を立体的に、いびつに組み合わせた、
現代芸術を目指して挫折したような形だ。
ルカは走りながら、無言でダガーを構えた。
カラットが、停止銃を装填する。
ヤンが拳箱を構える。
「展開させる!そのあと停止をかけなさい!」
「反応がかすんでるんだけど!」
「とにかく、見えたら撃ちこみなさい!」
「了解!」
カラットは答え、ルカは多くの過去の箱に覆われた…多分、男に向かっていった。

ルカは過去の箱の群れを展開させようとする。
しかし、過去の箱の群れを持っている男は、
ルカを認識し、ありえない動きでかわす。
(プレート無効ね…格闘も記録しているのかしら)
ルカは思ったが、まぁ、違法な記録を持っているものとしては、普通になっているものだ。
ルカが再びダガーを構える。
男はすばやくかわそうとしたらしいが…
何かの衝撃を受けて、がくりと倒れた。
「格闘記録のバージョンが古くて、よかったですよ」
男の立っていた後ろには、ヤンがいた。
ヤンがどうやら、男を後ろから気絶させてくれたらしい。
「ありがとう、ヤン。ついでで悪いけど、この男を身動き取れないようにしといて」
「了解」
ヤンは男を羽交い絞めにする。
後からカラットも追いついた。
ルカは、ダガーを構え、意識を集中した。

(この多数の過去の箱…きっと、本体を一つ展開すれば、あとはばらばらになるはず…)
ルカは箱の目を走らせる。
切り取られたらしい、過去の箱の群れ、
そのずっと奥に…
(金庫?)
ルカは、そう感じた。
おそらくは、持ち主が過去の箱に手を加えたものだろう。
ルカは、金庫の過去の箱に、ダガーをつきたてた。
(右…左…)
ルカはダガーから伝わる感覚を頼りに、金庫を解く。
そして、
「展開!」
ルカは宣言し、金庫は開き、つながった箱がばらばらと崩れていく。
カラットが、金庫の中の反応地点へと停止銃を撃ちこみ、
ヤンは、羽交い絞めを解くと、違法な記録を拳箱で回収した。

男は一般人に戻り、
ルカは端末経由で、切り取られた過去の箱を、
パンドラの箱のデータベースへ送った。

いつものように、
装備品を装備課に返し、
記録追跡課の待機室に戻ってくる。

ジャスミン茶も、ホットがおいしい季節になった、と、ルカは思った。


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