箱物語(仮)16


いつものように、
チーム・パンドラの箱、記録追跡課は、記録を追っていた。
今日は違法な記録捕獲をこれまでに二件。
他人の記録の不法コピー、
これはなりすまししようとした一件と、
あとは、例の過去の箱の鍵だ。
なりすまししようとした者も、
似たようなものを使って、他人の過去の箱に違法に侵入、
その上で記録のコピーを作ったのだろう。

「どこから過去の箱の鍵なんか、流出しているのかしら…」
移動中の車の中、
ルカがぼやく。
「電子箱も高スペックになっているでしょう。それもかもしれません」
ヤンが私見を述べる。
「電子箱と、過去の箱を直結するのも?」
「そうですね…」
「違法性に引っかかって、過去の箱が壊れる恐れもある…それなのに」
何か言おうとした、ルカの銀色の小型端末が着信を知らせた。
開いて、記録を取り出す。
「三件目。ヤン、カラット、記録とっといて」
「うえー、またかよー」
「わかりました、信号で止まったら、記録まわしてください」
おのおのの反応をして、彼らは記録を共有した。

記録によれば、
三件目の違法記録持ちは、路地に今逃げ込んでいるらしい。
車では追いにくいなとルカはふんだ。
「カラット」
「うん?」
「射撃の腕は上がった?」
「上々っす」
「じゃあ、その上で、あなたに頼みたいことがある」

車の中で三件目の違法記録持ちを追う算段がなされ、
路地の近くの路肩に車は止まった。
いつものようにプレートをつけ、一般人からわからない彼らが走り出す。
ルカとヤンは記録どおりに違法者を追い、
カラットはあさってのほうに走っていった。
ルカの過去の箱の目が、
遠くに違法記録持ちを見る。
奥へ奥へと逃げ込んでいるらしい。
身体能力を上げる違法記録を持っているとすれば、
奥から…先にある線路を越えて、
距離を稼がれる恐れがある。
先にある線路は、
ひっきりなしに電車が行きかいしているのだ。

違法記録持ちは、
とにかく今、パンドラの箱から逃げんとしていた。
自分を永久に、誰にも忘れられないような記録に。
そう言われて落とした記録なのだ。
他人の記録もすべての記録もすべてともに、
そして、この身体能力記録で、
パンドラの箱から逃げ切り…
違法記録持ちは、跳躍力の身体能力記録を使おうとした。
この先には線路がある。
電車が通り過ぎれば、すぐ次の電車で目くらましができると踏んだ。
一本電車が過ぎていった。
そして、線路の向こう側が見えた途端…

「足腰自慢はあんただけじゃないんだ」

線路の向こうには、カラットがいた。
シュン!
停止銃は、計算どおりに着弾した。

あとはいつものように、
違法記録を捕獲すると、
違法記録持ちは一般人となって戻っていった。

「しかしすごいよなー、シジュウの魔法記録」
帰りの車の中、カラットははしゃいでいた。
「カラットのでっち上げた…今回は走る速度を上げたのよ」
「そうそう、風みたいに走れるんだ」
カラットはすごいを連発した。
ルカは軽くため息をついた。
「すごいのは自分じゃないのよ…あくまで」
「あくまで記録、だろ」
カラットがにやりと笑った。
「記録にだけ頼るようなら、俺も違法者と変わりないぜ」
「…言うようになったわね」

彼らを乗せた車は、いつものように、チーム・パンドラの箱に帰っていった。


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