箱物語(仮)18


シジュウは自宅の自室で、
最近の記録を洗っていた。
過去の箱の鍵が流れている可能性。
そのあたりを重点的に洗った。

シジュウの電子箱の画面は、
ものすごい勢いで表示を変えていく。
何件も何件も、
シジュウはチーム・パンドラの箱が関わった事件を洗う。
そして、ふと、気がついた。

「落下…?」

シジュウは、そこで、電子箱をいじるのを止めた。
「動き出しましたかね…」
シジュウはつぶやいた。

翌日。
いつもの記録追跡課の待機室。
シジュウはいつもいない。
待機室まで来ることは、まれだ。
ルカは電子箱をいじり、
事件の記録を、電子箱に移した。
過去の箱に空きができたかもしれない。
ルカは、ほっとため息をついた。
ジャスミン茶でも入れようかと、ルカが席を立ったとき、
銀色の端末に、連絡が入った。
ルカは、端末から自分の過去の箱に記録を移す。
違和感。
シジュウのものではない感覚。
それでも記録は、
自分の過去の箱に移し、
ルカは濃い灰色のジャケットを羽織った。
「ちょっと行ってくるわ」
と、ヤンに言い残し、ルカは装備課に向かった。

記録が伝えている。
装備をして、4番区に来いと。
シジュウではない記録。
何をしたいのかはわからないが、
無視はできなかった。

ルカはいつものプレートに、いつものダガーを持ち、
軽自動車で4番区を目指した。
不安、そして、好奇心のようなもの。
そんなものがルカの中にあった。

4番区の指定された場所に、
ルカは軽自動車をとめた。
誰もルカの事を見ていない。
誰も認識していない…

突如、ルカは、落下する感覚に陥った。
地面に穴が開いたような、
天と地がひっくり返ったような、
ただ、落下。
目の前の雑踏はそのままなのに、
自分が落下をする感覚。

これ以上ないほどの不安感。
すべてが終わるような感覚、
終わらない、終わる感覚。

ルカは足の感覚を追った。
足は、地面にある。
だとしたら、落下の感覚は、何かの記録が入ったもの。
ルカは呼吸を一つする。
そして、銀色の端末を出すと、
シジュウのデータベースから、対抗できる記録を引っ張り出した。

ダウンロードをする。
瞬時に、ルカの感覚は平常に戻った。
町の中は相変わらず。
しかし、そこに、黒い影が一人だけいた。
さっきまではいなかった。

「さすがチーム・パンドラの箱のルカさん」
黒い影は笑った。
顔があることは認識しているのに、
どんな顔なのか全然わからない。
「私は怪盗アーカイブ」
影は名乗った。
「さっきの落下する感覚…」
「私の名刺代わりですよ」
「シジュウの真似は下手だな。シジュウはあんな記録を送らない」
「それも見越してですよ」
アーカイブは笑った。
「おかしいと思った、ルカさんはきっと来る。ぜひともお会いしたかったんですよ」
「何が目的?」
「ルカさんを記録しようと思いまして」
「記録…」
「すべての過去の箱に干渉できるダガー。最新版の過去の箱の鍵に、ぜひともほしいですね」
ルカは身構えた。
アーカイブは、また、笑ったらしい。
「今回は、私の手の内を知らせておこうと思いまして」
「手の内?」
「そう、私は過去の箱を圧縮解凍ができます。そして、その干渉に、是非ともルカさんのダガーの能力が必要なのですよ」
「過去の箱の鍵の能力…」
「ルカさんの箱の目。そして、ダガーの能力、私の圧縮解凍…」
アーカイブは、顔を近づけた。
表情はわからない。
「すべてがそろえば、電子箱以上に、人は記録を操作できると思うのですが?」
ルカは、アーカイブをにらんだ。
アーカイブは笑った。
「とりあえず、ルカさんを記録できたので良しとしますよ。落下するときは、私が近くにいる証拠…」
アーカイブは背を向けた。
「落下の果てに、私はいます。それでは」

アーカイブは、消えた。
チーム・パンドラの箱のプレートのようなものを発動させたのかもしれない。

ぼんやりするルカに、
端末から連絡が入った。
シジュウからだ。
記録を過去の箱にまわす。
「怪盗アーカイブ…」
彼が動き出した、と、記録は伝えていた。


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