箱物語(仮)24


落ちていった。
その先は知らない。
女の声がした。
「何回目?」

「仕事、2番区に違法記録持ち」
ルカは端末をしまい、濃い灰色のスーツのジャケットを羽織る。
「ヤンは車を回して、カラットは装備課に」
「了解」
「らじゃっす」
ジャケットを羽織ながら、おのおの、持ち場に向かう。
ルカは、シジュウから回された記録に違和感を持っていた。
ルカは、過去の箱に、一時的に記録を入れておく。
ルカがなんとなく感じた記録だ。
調べる時間もないので、選んではいないが、
なんとなく、感覚が似た記録を選んで、過去の箱に入れた。
容量に不安がないわけではないが、仕方ない。
毎日のバックアップはこんなときに役に立つはず。
ルカは自分に言い聞かせ、ダウンロードを終える。
「よし」
ルカは記録追跡課の待機室をあとにした。

「それで、今回の違法記録ってのは?」
カラットが車の後部座席から顔を出し、尋ねる。
ルカが答える。
「ある人間の乗っ取りね」
「乗っ取り型?」
「見てみないとわからないけど、何か防御をしているかもね」
「格闘記録とか?」
「そうね」
「俺の停止銃を食らえ!」
「なにそれ」
「データベースにあった、変な記録をいじってみたっす」
「必要のない記録は、過去の箱を圧迫するわよ」
「…きをつけるっす」
カラットは、後部座席に引っ込んだ。
プレートはつけ終え、装備の点検もしてある。
後は2番区へ向かうだけ。
ルカはその車内で、記録を組み合わせていた。
ルカの過去の箱の中の、記録のパズル。
ヤンが静かに運転をしている。
ルカはパズルを解くと、目を開いた。
過去の箱の目だ。
道行くものに箱がはえている。
「あいつね…」
ルカは、つぶやいた。

車は2番区の路肩に止まり、
ルカは走り出した。
ヤンが拳箱を装着し、カラットが停止銃を持って追いかける。
「反応地点が見えません!」
ヤンが後ろから声を上げる。
「反応は集って反応、反応になる形になっていないだけ」
ルカが走りながら返す。
ルカは前を見ている。
「見えるの、過去の箱が、脈打ってるのが」
「なんすかそれ」
「前方、ベージュ色のスーツの男」
ルカが指示した。
ヤンは、大またに走って、その男を捕らえようとする。
男は俊敏にかわした。
「見えてる?」
「プレート無効ね」
「反応地点が見えないっすよ」
カラットは停止銃を撃つに撃てない。
「反応していないのは…」
ルカが男との間をつめる。
「残りが全部、あいつの手によって落っこちてるから」
ルカがダガーを片手に、男に過去の箱を合わせる。
瞬間生まれる過去の箱の縁。
男の過去の箱に、ルカの解いたパズルの…
データベースからダウンロードした、記録の山を男に移す。
この男の記録が最後のピース。
完成した瞬間、ルカは男と記録を共有した。
落下する記録。
果ては見えない。
「何回目?」
ルカは思わずたずねた。

「反応した!」
カラットが叫んだ。
停止銃を向ける。
ルカも体制を変え、ダガーを構えようとする。
瞬間、
出来上がったパズルの記録は、また、ばらばらになって砕け散った。
ルカは過去の箱が、記録を放出して、また、戻っていくのを見た。
カラットは気がつかず、停止銃を撃った…

違法記録は、取り締まられ、
そして、パズルの記録はどこかへ行ってしまった。

「結局、どういうことだったんですか?」
帰りの車の中、ヤンがたずねた。
「落下する記録を見たわ」
「落下…」
「怪盗アーカイブがばら撒いた記録ね。あのパズルは」
「パズルっすか?」
カラットが割り込む。
「プレート無効や格闘記録は違法として、あのパズルは、怪盗アーカイブがつけたものね」
「だから、なんなんすか?」
「記録のパズル、多分依頼人は、記録をばらばらにしてほしいと頼んだだけ」
「依頼人すか?」
「そう、そのパズルが組み合わさると、他人の過去の箱を乗っ取る」
「それで乗っ取り型」
「でも、怪盗アーカイブは面白くなかった。そして、組み合わさると壊れるようにした…」
「どうして」
「何度も落とすのよ。その果てに怪盗アーカイブがいるから」
「何度も落ち続ける…」
「永遠の落下かもしれない…記録が劣化すれば死ぬかもしれない」

風景は変わる。
ルカは外を見る。
「何回目かしらね」
ルカは静かにつぶやいた。


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