箱物語(仮)25


ルカは、タカハの家にいた。
小さな家。
それなのに、ルカの部屋はある。
濃い灰色のジャケットを脱ぐ。
いつものようにハンガーにかける。
お気に入りのクッション。
二人でオフのときに見つけた、ベッドカバー。
ハムスターケージにいる、ハムスターのダイキ。
からころと回し車を回している。
ルカは着替えた。
ラフでだぼだぼの格好だ。
パジャマみたいなもの。
タカハのお下がりだ。

ルカはその格好のまま、台所に降りていった。
タカハが、なべの前にいる。
「今日は、何?」
「そうめん」
「手伝うことは?」
「冷やすから、氷を用意してもらえるかな?」
「ん、わかった」
ルカは冷凍庫からいくつか氷を取り出す。
「水で冷やしてから、氷入れてね。今日は涼しいのが出来るよ」
「うん」
ルカは、笑った。
職場の同僚が見たら、びっくりするくらい無邪気だ。

「いただきます」
二人はそうめんを前に、手を合わせて、言うと、食べ始めた。
つるつるつる。
夏真っ盛り。
猫のナオキがにゃあとやってきた。
自分の食べるものでないとわかると、
タカハの元へとやってきて、そばに丸くなった。
「餌がほしいんじゃない?」
「さっきあげたよ、ねこかん」
「じゃあ、ご主人様に甘えたいんだ」
「甘えたい?」
「タカハのそばは居心地いいから」
ルカは、にっこり笑った。
タカハは苦笑いした。
「何かいいことあったのか?ルカ?」
「普通って、いいなぁと思って」
「普通?」
タカハが聞き返す。
「タカハと一緒にいて、ナオキとダイキがいて、同棲だけど一緒にいて、そうめん食べて」
ルカが気抜けしたように上を見る。
そこはありきたりの天井だ。
「普通って、いいなぁって」
タカハは、ため息をついた。
「ルカ」
「うん?」
「仕事に疲れたら、いつでも俺のところにおいで」
「…うん」
「俺はいつでもここにいるし、ルカのこと考えてるから」
「…うん」
「何かあったの?」
「何にも、ただ、いいなぁって思うだけ」
ルカはそうめんをすすった。
だぼだぼのパジャマをまとったルカは、普通の女だ。
「あとでお風呂に入っておいで」
「へんなことするの?」
「そういうわけじゃないけど…」
タカハは言いよどむ。
「ただ、風呂上りにちょっとだけアルコール飲んで、ぼんやりとテレビ見て、馬鹿なことで笑おう」
「うん…」
「ルカが普通を好きというなら、この家にいるときくらい、普通になろう」
「ありがとう」
ルカは、心から感謝した。
「さぁ、そうめん食べちゃおう」
「うん」

後片付けはルカの仕事。
明日はどうなるかわからない。
そんな仕事をしているけれど…
やっぱり帰る場所があるのは、ありがたいと思った。


続き

前へ


戻る