箱物語(仮)27


「ずんずんしゃっ…ずんずんしゃっ」

いつもの記録追跡課の待機室。
カラットが何か口ずさんでいる。
ルカは調子っぱずれのカラットに注意を入れようとした。
が、すぐ、あきらめた。
カラットは大きなヘッドホンをつけている。
これじゃ聞こえない。

「てれっててれてれてれれーん」

カラットが何か口ずさむ。
何かの楽器の音に合わせたらしいが、
調子が外れていて、
何を言いたいのかわからない。

「わっしゃー!ゆー!わっしゃー!」

もはや何がなんだか。
ルカはあきれ混じりに、自分の席のディスプレイを見た。
なんとなしに、ニュースを検索する。

「なんのなんのなんのなんーの!」

カラットは調子に乗ってきたらしい。
それでも調子は外れたままで、
ルカはカラットを放置して、ニュースを見た。
「カラオケ大会?」
ニュースが一つ目に飛び込む。
2番区でカラオケ大会があるらしい。
優勝商品は、結構な額の商品券だ。
「まさかね」
ルカはなんとなく否定した。
この調子外れが、カラオケ大会に出ることもなかろう。

「ずんずんしゃっ…ずんずんしゃっ」

カラットはそれでも一生懸命だ。

記録追跡課の待機室に、人が入って来た。
「皆さんがんばってますかー」
シジュウだ。
ルカは席に着いたまま、ぺこりと会釈した。
カラットは気がつかない。
奇妙なフレーズを口ずさんでいる。
ルカは注意しようとしたが、シジュウがそれを制した。
「カラット君には、がんばってもらわないといけません」
「がんばる?」
ルカは、なんとなく嫌な予感がした。
「そして、ルカさんも」
「へ?」
ルカは間抜け声で答えた。
「ルカさんは主旋律を歌ってもらいます。アカペラですよ」
「うそ」
「ほんと」
シジュウはにっこり笑った。
そして、大きなヘッドホンと、記録を渡す。
「商品券は山分けで」
「だって、チームパンドラの箱は…」
「それなら、探偵会社としてエントリーしてあります」
「もうエントリーしてるの!」
「善は急げ!さぁ、練習練習!」
シジュウは嬉々として、ヤンにもヘッドホンと記録を渡した。

ルカはヘッドホンをつけて音楽を聞く。

シジュウには逆らえないし、
何よりちょっと楽しそうだと思った。
ある意味、ちょっと末期かもしれない。


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