箱物語(仮)32


「みなさんごきげんよう」
いつもの、チーム・パンドラの箱、
記録追跡課の待機室。
いつものメンバーが待機しているところに、
飄々とやってきた上司。
シジュウだ。

ルカはジャスミン茶を席に置くと、
椅子をくるりと回した。
「珍しいわね、シジュウ」
シジュウはにっこり笑った。
眼鏡の中で、穏やかに目が細められる。
「記録ばかりでは味気ないのです」
シジュウは、うーんと伸びをした。
そして、手首をぱきぽき。
シジュウなりに気晴らしに来たらしい。

シジュウは、自分の席に着く。
ヤンがジャスミン茶をいれて出す。
「ありがとう」
「はい」
短くやり取りをすると、
ヤンは席に戻る。
戻りがてら、カラットをとんとん叩く。
カラットは平和なときはそうであるように、
居眠りをしている。
少し叩いた程度では起きないらしい。
シジュウはジャスミン茶をすすった。
平和なため息を一つして、
「平和ですね」
と、つぶやいた。

ルカは椅子にもたれかかりながら、
シジュウに問いかける。
「何か用件あるのかしら?」
シジュウは、にっこり笑った。
「なーんにも」
ルカは眉間にしわを入れる。
「ただ、皆さんが恋しくなりました」
「こいしく?」
「そうですね。恋しく」
シジュウはジャスミン茶を飲み干して、
また、平和のため息を一つ。
「大抵のことは記録でどうにかなりますけど…」
「けど?」
ルカがききなおす。
「そうですね。皆さんの代わりという記録は、ないんです」
「魔術箱のシジュウでも?」
「皆さんの代わりは、ないです。だから時々恋しくなります」
シジュウは、また、にっこり笑った。
笑顔のまま、
ヤンを見て、カラットを見て、ルカを見る。
「皆さんの代わりは、いないんです」
ヤンはうなずく。
ルカは、軽くため息。
カラットは寝ている。
シジュウは満足そうに、うなずいた。

「おや」
シジュウが何か気がつく。
「なにかあったの?」
「3番区ですね。追跡すべきものあり」
待機室に緊張がピンと走る。
ルカが立ち上がってジャケットを取る。
ヤンがカラットを起こす。
カラットはむにゃと言っていたが、
緊張に気がつくと、走り出した。
「詳細は端末に落としておきますよ」
「了解」
ルカは答えると、待機室をあとにした。

シジュウが残された。
「有能な部下を持って、幸せですよ」
シジュウはそっとつぶやくと、
ジャスミン茶のおかわりを入れに、席を立った。


続き

前へ


戻る