箱物語(仮)33


『かまいたちだね』
暗がりの中で合成音声がつぶやいた。
「なによそれ」
ルカが返した。
マンホールのふたらしいところから、
ミスター・フルフェイスが顔を出す。
フルフェイスヘルメットをかぶっているので、
顔を出すというのは、ちょっと違うかもしれない。
『いたちが鎌を持っている妖怪さ』
「わかってるわよ」
『ルカと、ルカの同僚が、かまいたちみたいさ』
「何でそうなるのよ」
『まぁまぁ』
合成音声なのに、
どこか面白がっている気がする。

『まず、足を止める役割。停止銃のカラット君』
「…」
ルカはだまった。
『次に切る役割、これが展開刀のルカ』
「それで?」
『最後に薬を塗る、これが拳箱のヤン君』
「よく出来てるわね」
『いや、ルカたちががんばってるからだよ』
「理由になってないわね」
『いい理由だよ。ルカたちが裏で動くから記録が流れるのさ』
電子箱の動作している音がする。
『今も記録は流れているさ。ルカの探しているのも流れるはずさ』
「だといいけど」
ルカはため息をついた。
『かまいたちは、すばやいものさ。目標みつけたら迅速だよ』
「どうかしら」
『記録流すよ、例のあれ』
「わかった」

間がある。
ルカは記録をダウンロードする。

「…わかった」
『そうかい、じゃ、いつもの通りで頼むよ』
「わかったわ」
ルカは出口に向かって歩く。
ふと、ふりむく。
「こっちがかまいたちなら、あなたは何?」
『ただのモグラさ』
ルカは微笑み、ミスター・フルフェイスのもとをあとにした。

ゼロ番区の端っこ、
車が止めてある。
「目標見つけたら、迅速、ね…」
ヤンが待っている。
カラットがあくびしている。
「ヤン、カラット、記録もらってきたわよ」
ルカは、いつもの調子で声をかける。
ヤンが車のエンジンを入れた。
ルカは乗り込む。
いつものように三人での仕事が始まる。


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