箱物語(仮)34


「顔?」
カラットが聞き返した。
「そう、顔」
ルカが返す。そして、説明を続ける。
今回とらえる違法記録所持者は、
顔を変える記録を持っているらしいこと。
顔を変えるだけでなく、誰がいじったのか、
過去の箱の反応もいじるらしい。
じっと見れば、ルカの箱の目なら見破れるが、
反応系の、ヤンやカラットでは、見分けにくいだろうとのことだ。

「めんどくせー」
カラットは、後部座席で伸びをした。
「それが仕事よ」
「2番区そろそろです」
ヤンがナビする。
「プレートは装着した?」
現場を前に、各自点検する。

路肩に車を止めて、
彼らは飛び出す。
誰も見えないはずの彼ら。
ルカがいつも以上に人ごみを見つめながら走る。
(どこだ)
通り過ぎていく、顔、顔、顔。
普通の人間。
ルカを認識しない人間。

ルカは、気配を感じた。
遠くで何かが落ちる感覚。
落ち続ける感覚。
(反応をいじることまで出来るなら…)
ルカはそこを目指して走り出す。
(怪盗アーカイブが絡んでいる可能性だってある)
ルカは人の流れを見る。
その中に一人、
落ち続けている反応。
じっと見ていると、顔が崩れた。
崩れ続けている。
女のような格好をしているが、
性別すらわからない。
崩れ落ち続ける人間。

「カラット!」
ルカが大きく声をかける。
カラットは停止銃を装填する。
ジー……ジャッ!
「白いドレスの崩れてる女!」
カラットは、停止銃を撃つ。
シュン!発砲音がする。

崩れた顔が砕けて、止まった。
ルカは、近づき、ダガーを突き立てる。
「展開!」
記録がさまざま飛び出す。
ヤンが拳箱に反応のある記録をとらえる。
ルカは、記録の反応を見る。
ひとつ、ルカの目にうつった記録。
「落下の記録…」
ルカは、その記録を、自分の過去の箱に入れる。
「完全ではないけれど、過去の箱の鍵…」
ルカの脳裏で落下の感覚。
怪盗アーカイブが笑っている気がした。

「戻るわよ」
ルカはダガーをおさめると、
一般人に戻った人間を置いて、
その場から去っていった。

崩れ落ちる顔が、
停止されたその一瞬、
解放されたような微笑を浮かべた気がした。
ルカは、そんな気がした。


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