箱物語(仮)35


「神経探偵?」
ルカは聞き返した。
「巷で評判の探偵さんらしいですよ」
シジュウはニコニコ笑いながら答えた。
「その探偵が、何か?」
ルカは答えながら、電子箱で検索する。

神経探偵・スパーク、あらゆる罪を告白させる。

でかでかとそんな文字列が出た。
ルカの眉間にしわが入る。
「あらゆる罪?」
「そう、あらゆる罪」
「どこか基準があるのかしら」
「法に触れるものは、全部自供してしまうそうですよ」
「それ、探偵の仕事なの?」
「やってしまうのが探偵ですよ」
ルカはため息をついた。
胡散臭すぎる。

「パンドラの箱でも、彼を見ているんですがね」
「本部でも?」
「過去の箱の鍵を使っていないか、その点をね」
「過去の箱の鍵…」
過去の箱の鍵、使えばどんな人間の過去の箱も覗ける。
使えば罪を覗くこともできるだろう。
本部はその辺を探っているらしい。
「ルカさん、ちょっと神経探偵に接触してもらえませんか?」
「わかったわ」
ルカはルカで、神経探偵の写真に、どこか既視感めいたものを感じた。

町に出て、神経探偵の事務所を目指す。
場所はすぐにわかった。
マスコミらしいものが騒いでいるのが、多分それだ。
「今回のことについて、政治家の…」
リポーターがしゃべっている。
神経探偵が、何かやったのだろう。

ルカは野次馬の一人に紛れ込む。
濃い灰色のスーツ姿は、目立たない。
「出てきました!…議員、今回のことについて」
マスコミはごみごみしたまま、車のほうに移動する。
多分中心に、議員だか政治家だかがいるのだろう。

車は強引に発車。
マスコミも、がやがやとあとを追った。
野次馬の群れが散る。
ルカは立ち尽くしていた。
ただの暴露をやっただけのことじゃないか?
ルカはそういう印象を持った。
『ただの暴露じゃないんだ』
ルカの内側で声がする。
聞いたことのある声。
どこでだったか。
『ミスター・フルフェイスから噂は聞いているよ』
ミスター・フルフェイス。そう、彼の合成音声に声が似ている。
『事務所においでよ。僕のことを知ってほしいんだ』
ルカは声の指示通り、事務所に向かった。

ビルの2階のドアを、一応ノック。
「どうぞ、ルカさん」
ドアの中から先ほどの声。
ルカはドアを開ける。
中は広くない事務所。
少しくたびれたソファーがおいてあったり、
事務用の椅子と机があったりする。
ドアが閉まる。
「今、お茶を入れますね」
気配もないところから、声がかかる。
ルカはそちらを見る。
あどけない顔をした少年が、いた。
電子箱で調べた、神経探偵、その人らしい。
既視感がやはりある。
どこで見たのだろう。

「ルカさんの記録だけでは、そのデジャヴは解けませんよ」
ミスター・フルフェイスに似た声で、神経探偵は言う。
「神経が感じるところのデジャヴまで解かないと」
「神経が?」
「僕は神経を感じます。過去の箱とは違うものです」
「神経を、感じる」
「神経を感じてつなぐ、そしてスパーク。それが僕の仕事です」
ルカはよくわからない。
「マスコミさんが騒ぐおかげで、仕事があります。ご一緒にどうですか?」
「…ぜひ」

まもなく、お客が入ってきた。


続き

前へ


戻る