箱物語(仮)36


神経探偵・スパーク。
彼のもとにお客が来た。
依頼人らしい。

ルカは一応依頼内容を記録する。
出番はないだろうが、相手の出方を見るためだ。
神経探偵は、依頼の内容を手短にまとめると、
「では、これからある記者会見。それでけりをつけましょう」
依頼人も驚いた。
ルカも驚いた。
神経探偵は、いきなり終わらせるらしい。
「ただし、一回はその男の身体に触れてください。決まりごとはこれだけです」
「身体に?」
「肌の部分だとなおいいです。手とか、首とか。顔もいいですね」
「触れれば、いいんですか?」
「はい」
神経探偵は、笑った。

午後の記者会見の準備があるというので、
依頼人は帰っていった。
神経探偵はのんびり伸びをした。
「いきなり終わらせるのね」
ルカがそういうと、神経探偵はにっこり笑う。
「僕はスパークさせるだけだよ」
「スパーク?」
「まぁ、ちょっとした騒ぎさ」
無邪気に神経探偵は笑う。
「依頼人の神経から、ターゲットの神経に入り込む。スリリングだよ」
「ミスター・フルフェイスとは違うのね」
「いや、きっとあいつと似ていると思う」
「そうかしら」
「遺伝子はきっと一緒だから」
「不思議なものね」
ルカはため息をついた。

午後の記者会見の会場に向けて、
ルカは神経探偵を乗せて車を出す。
「いつもは、神経つなげてスパークで終わりだけど」
「私がいるから?」
「うん、どうなるかを見ておいてよ」
「わかった」
車は走る。
「箱が見える気分って、どんなものだい?」
「神経をつなぐってどんな感じ?」
「そんなものか」
「そんなものよ」
短く会話して、車の中は静かになった。

記者会見のある、午後。
何の記者会見かは聞いていない。
ルカも特別興味はない。
マスコミが大勢。
でも、知ったことではない。
ルカはそっと、神経探偵に尋ねる。
「ターゲットは?」
「今出てきた男、真ん中の」
真ん中の席に男が座った。
「神経はつながっている。その気になれば拷問だってできるよ」
ルカは眉間にしわを寄せた。
神経探偵は笑った。
「しないよ」
そして、神経探偵は真顔になる。

カメラが動き出す。
質問が始まろうとする。
神経探偵は、神経を研ぎ澄ます。
ターゲットの神経をとらえる。
全身の神経をとらえ…

「スパーク」

神経探偵は、小さくつぶやいた。
ルカには、神経探偵が発光したように見えた。
そしてほぼ同時に、ターゲットが発光したのも見えた。
そんな風に見えた。
ターゲットは、びくんと硬直して…次の瞬間べらべらとしゃべりだした。
それは聞き苦しい、隠しておかなければならないこと、全てだった。
犯罪性もあちこちにじんでいる。
たがの外れてしまったかのように、男はつばを飛ばしてしゃべる。
隠すことを忘れた男は、自分を止められずにしゃべり続けた。

ルカと神経探偵は、そっとその場をあとにした。

「スパークって結局何なの?」
ルカが帰りの車でたずねる。
「せき止めているものを強引に外しちゃうのさ。神経がつながれば出来るんだ」
「箱とは違うのね」
「箱とは違うけど、たぶん箱に入ってるものを、だらだら流すようにはなってるかも」
「どう報告したものかしら」
「多分上司はわかってるよ」
「どうして?」
「ルカさんを介して、僕を見ている人を感じた。多分伝わってる」
ルカはため息をついた。
「しょうがないか」
シジュウに文句は言えない。

世の中にはいろんな人がいるものだ。
そして、可能性もいろいろあるものだ。
ルカはそんな風に思った。


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