箱物語(仮)38


「クマバンドって言うらしいんすよ」
カラットが椅子をきこきこ鳴らしながら話す。
「親父の友達らしいんすけどね」
「ふむふむ」
聞き手はヤンだ。
「なんでも、音楽で食べていきたかった夢があって」
「ありますね、夢」
「その夢を捨て切れなくて、親父になってからクマバンド作ったらしいっす」
「それもそれで面白いですね」
ヤンはうんうんとうなずく。

いつもの待機室。
呼び出しがなければ、こんな雑談も出て来る。
ルカはカラットとヤンの会話を流しながら、
電子箱の記録の整理をしていた。
なんとなく、クマバンドで検索してみる。
少ない記録があったが、
大流行ではないようだ。

程なくして呼び出し。
待機室を風のように出て行くメンバー。
ルカはクマバンドのことなんか忘れていた。

「今回も記録の捕獲。盗まれた類みたいね」
ルカはシジュウから送られた記録を展開する。
「止めて開くので大丈夫ですかね」
ヤンが車の運転をしながらたずねる。
「戦闘能力次第では、接近が必要かも」
「俺が止めますって」
カラットが胸を叩く。
「外さないでね」
「大丈夫っすよ」
カラットの根拠があるのかないのかの断言。
ルカは小さくため息をつくと、
いつものプレートを胸に当ててロックした。

車を止め、ルカはあたりを見渡す。
箱の目を使う。
生えている箱、箱。
ルカは特殊な記録を探す。
そして、ビルの向こうにうごめく人影をとらえる。
「いた!」
ルカが走り出す。
ヤンとカラットが続く。
人影がこちらを向く。
若い男だ。
しかし、その過去の箱はいっぱいになって歪んでいる。
反応を見たカラットが、停止銃を構える。
男はそばにいた一般人らしい中年の男を盾にする。
カラットが舌打ちする。
しかしそのとき、
一般人と思われた中年の男が、抵抗を見せた。
裏拳を華麗に決め、ひるむ男の手をつかむと、
ぐるりと関節を決めた。
若い男は情けなく泣き声をあげた。
ルカはあっけに取られたが、すぐ思い直し、
若い男の過去の箱を展開し、ヤンが記録を捕獲した。
若い男はその間に気絶してしまった。

中年の男は、プレートをつけたルカたちに気がつくことなく、
警察を呼んでのことになったらしい。
なんだかクマのような中年だったと、ルカは感じた。
そして、ルカたちは、警察が来る前にその場を去って行った。

数日後。
「あー!」
電子箱を見ていたカラットが声を上げる。
「どうしました?」
ヤンがたずねる。
「この前の中年、クマバンドのヴォーカルっすよ!」
ルカも電子箱で検索する。
確かにあのときの中年だ。
そしてその記録は、ライブが超満員になって、大盛況だという。
「プレート外して、サインもらえばよかったー」
カラットはがっくりする。

クマのような中年は、記録の中でも元気そうだった。


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