箱物語(仮)39


珍しく、ルカはタカハと買い物に来ていた。
同棲中の男。
ルカがこんな仕事でなければ、
結婚まで考えてもいいような関係。
商店街を歩き、
いろいろなものを見る。
晩御飯の食材もそろえる。
いたって普通の夫婦に見えるだろうか。
それを考えると、ルカは少しくすぐったい気がした。

「はい、それじゃおまけしとくから」
タカハが会計をしたら、八百屋さんでおまけしてくれたらしい。
「嫁さん大事にするんだよ!」
と、声をかけられる。
タカハは照れながら笑顔だ。
ルカも微笑を返した。
視線を切り替えたそのとき、
八百屋の向こうで妙な箱が見えた。
一瞬だった気がするが、職業柄気になった。
あれはきっと過去の箱だ。
妙という以外よくわからなかったが、
何かやっぱり妙だ。

ルカはあたりを見回す。
夕方の商店街は、人でにぎわっている。
仕事なら探すところだけど、
一応仕事ではない。
どうしたものだろう。それでも気になる。

「そういえばさぁ」
八百屋さんが何か言っている。
「最近このあたりで変質者が出るんだってよ」
「変質者?」
タカハが話題に乗っている。
「そう、箱を探して箱の格好をしているんだって」
「箱?」
タカハがルカを見る。
ルカは首をかしげる。
「男は箱に入るべきだ。俺は箱男だ…とか」
「箱男?」
「何とかの箱に詰め込めとかどうとか。気をつけたほうがいいよ」
「はぁ…」
タカハとルカは、一礼して八百屋を後にした。

帰りの車内で、
ルカは気になる箱のことを話した。
「仕事だったら追っていたのかい?」
「うん、仕事なら」
ルカは答える。
「思うに、ただのマニアだと思うよ」
「箱マニア?」
「そんなところ」
「危険じゃないかな…」
「大丈夫だよ」
タカハは笑う。
「どうにか護るから」
ルカも微笑んだ。
どうにかというのが、タカハらしい。

後日。
男ばかり襲っていた、自称箱男が、
何らかの罪で逮捕されたらしい。
過去の箱には、男の卑猥な記録が詰め込まれていたらしい。
タカハのほうが危険だったのかなと、
ルカはなんとなく思った。


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