箱物語(仮)42


無事に年の開けた、チーム・パンドラの箱、
記録追跡課、その待機室。
ルカはいつものように電子箱をいじっていた。
記録を外部にするのは不安があるが、
過去の箱に記録がいっぱいになると、死んでしまうのを、
ルカは何人も見てきた。
全ては記録だ。
未来はどんどん過去になり、過去はどんどん記録になる。
どんなことも記録になり、保存されたり忘れられたりする。
忘れるという機能は、どうもよくわからない。
記録は全て過去の箱の中にあるのに、
過去の箱のどこにあるのかわからない感じだ。
人々はそれをなんでもないかのように、
日常に忘れることを使っている。
「忘れるって日常なのかな」
ルカはつぶやく。
「過去の箱があるほうが、非日常なのかもしれないですね」
ヤンが答えてくれた。
クマのようなヤンが微笑む。
「そういえば今日でしたっけか。新人が来るのは」
「そういえばそうね」
ルカは思い出す。
「カラット、起きなさい」
ルカは一応カラットに声をかける。
カラットはいつものように、夢の中にいた。
のんきに寝ている。
ルカはため息をつくと、ジャスミン茶を入れに席を立った。

「皆様ごきげんよう」
少しだけテンションの高いシジュウが、待機室にやってくる。
後ろに男がいる。
背の高い男だ。
髪をオールバックにしていて、年齢がわかりにくくなっている。
記録追跡課の制服の、濃い灰色のスーツを着ている。
「カラット君起きなさい。新人ですよ」
シジュウが声をかけると、
今度はカラットはむにゃむにゃいいながら起きた。
「新人のツヅキくんです」
シジュウが紹介する。
オールバックの男のツヅキが、ぺこりと礼をする。
「ツヅキです」
テンションが低い感じがする。
カラットは寝起きでほうけていたが、
気を取り直したらしい。
「後輩っすよね」
「そうですね、カラット君もツヅキ君にいろいろ教えてあげてくださいね」
「まっかせてくださいよ」
カラット場自分の胸を叩いた。
ツヅキは無表情にカラットを見ている。
「なんか反応しろよ、ツヅキ」
「はい?」
ツヅキは抑揚のない声で答える。
「先輩すごいですねとか、やりすぎですよ先輩とか、いろいろあるだろう」
「面白い先輩だと思います」
ツヅキはやっぱり、抑揚のない声で言う。
カラットは唖然として、話をシジュウに回す。
「シジュウさん、こいつこんな感じなの?」
「ちょっと抑揚がないですけど、ハートは熱いですよ」
「そっかあ、ハートは熱いのかぁ」
カラットはうんうんとうなずく。
「クールでホットなんだな。うんうん俺もそういう方向だからわかる」
ツヅキはやっぱり無表情だ。

一連の様子を見ていたルカは、
ジャスミン茶を入れて戻ってくる。
「それでシジュウ。何で今頃新人?」
「アーカイブ対策ですよ」
「アーカイブって、怪盗?」
「はい、そっちのほうです」
「それじゃ、相当有能なんでしょ」
「はい」
シジュウが断言する。
「ツヅキ君は縛糸(ばくし)というものが使えます」
「ばくし」
「はい、過去の箱を絡めることが出来ます」
「それなら、停止銃でも出来ることじゃない?」
「縛ったまま、記録をある程度読むことが出来ます」
「なるほどね、特化しているわけだ」
「そういうことです」
シジュウはにんまり笑った。

「それじゃ皆さん仲良くしてくださいね」
シジュウは新品の席にツヅキを座らせると、待機室を出て行った。
「それじゃツヅキ、何飲む?」
カラットが先輩風を吹かせて尋ねる。
「…ホットココア」
ツヅキは抑揚のない声で答える。
外見ほどツールなわけではないらしい。
カラットは派手につんのめり、
ヤンはふきだした。
ルカはやれやれと思う。
まぁ、仲良くやっていくかと思い、ルカはホットココアを入れに席を立った。


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