箱物語(仮)43


新人のツヅキと仕事をする。
ツヅキは無駄がない。
箱の目があるわけではないが、
過去の箱を反応で的確に追う。
停止銃で過去の箱が止まれば、
きっちり記録を縛糸で辿る。

仕事を終えて本部に帰る。
運転席にヤン。助手席にルカ。
後ろにツヅキとカラットが乗っている。
「ツヅキ」
「はい」
「過去の箱、見えてるの?」
ルカがたずねる。
「…反応追うしか出来ませんから」
「そう、ならそれでいいわ」
「…いいんですか?」
「なんで?」
「…カラット先輩は、もっと熱くなれって…」
「人それぞれよ。好きにしなさい」
カラットから文句が飛んでくるかと思ったが、
カラットは車の中でグーグー寝ている。
「平和なやつね」
ルカはため息をつく。
「平和ってことでいいじゃないですか」
ヤンが運転しながら声だけかける。
「…毛布ありますか?」
ツヅキが低いテンションでたずねる。
「後ろに備品と一緒にないかな」
ヤンが前を見ながら指示する。
運転を外れることは出来ない。
「…ありました」
ツヅキは毛布を引っ張り出すと、カラットにかける。
カラットはもごもご言いながら、毛布に包まる。
「優しさ?」
ルカがたずねる。
「…風邪ひかれたら困るかなと…」
「世間じゃ優しいってうつるわよ」
「…そうですか」
「そうよ」
ツヅキは表情をあまり変えずに話す。
「…優しいならそれでもいいかな」
「おかしな新人ね」
ルカはため息をつく。

「私たちは見えないところで記録を消したりしている」
ルカは頬杖をつきながら、
独り言のように言う。
「私たちは、ないことにされている。ない人間が優しくてもおかしいでしょ」
「…そうかもしれません」
ツヅキがテンション低く答える。
「…でも、どこかに優しさを感じられたら、それでもいいと思うんです」
「無視されていても?」
「…感じられたらそれでいいです」
「変な新人ね」
ルカは笑みを浮かべる。
むにゃもにゃとカラットが寝言を言う。
「…あの」
「なに?」
「…本部まで寝ててもいいですか?」
ルカは思わず後ろを振り向く。
「…仕事だって張り切って、昨日の晩、寝てないんです」
「勝手になさい」
「…はい」

程なくして寝息が聞こえる。
二人分だ。
「変な新人」
ルカがため息をつく。
「いいじゃないですか」
ヤンが前を見ながら、答える。
車は安全運転で、いつもの本部を目指していた。
「コーラとホットココアね」
ルカがつぶやく。
ヤンがくすくす笑う。
「ココアの残りはあったかしら」
「ツヅキ君がよく飲むので、わかんないですよ」
「そっか、よく飲むんだ」
「太らないのが不思議ですね」
「プレート外して買い出しに行くわ。ココアとジャスミン茶と、なにかある?」
「コーラも買っといてください」
「わかったわ、適当なスーパーに止めて。買ってくる」
車は安全運転で街を行く。
ルカはまた、後ろを見る。
眠る新人。
「変な新人」
ルカはまた、言ってみたけれど、
眠る新人は答えなかった。


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