箱物語(仮)44


ツヅキが何か電子箱で調べている。
ルカは目の端で、なんとなくそれを見ている。
ルカは視線を移動する。
カラットが平和そうに寝ている。
視線を移動させると、ヤンがジャスミン茶を入れている。
ヤンがにっこりうなずいた。
ルカの視線に気がついたらしい。
ルカは軽くため息をついて、
電子箱に向かった。
「何か気になりましたか?」
ヤンがジャスミン茶をルカの席に持ってくる。
「平和だなと思っただけ」
ルカは伸びをする。
ミスター・フルフェイスに何か聞くこともなく。
怪盗アーカイブに接触することもなく。
平和といえば、平和なのかもしれない。
ルカは再び電子箱に向かう。
記録が流れている。
ルカは自分の過去の箱から、記録を電子箱に入れる。
過去の箱が膨れて壊れないように。
ルカなりの、おまじないかもしれない。

「ルカ、さん」
ルカが振り向くと、ツヅキがいた。
「なにか?」
「神経探偵というのは、何者か、わかりますか?」
「神経探偵、スパークのことかしら?」
ルカはなんとなく思い出す。
神経をつないで、心のたがをスパークして外させる探偵。
「神経探偵は、何をするんですか?」
「居合わせたことがあるけどね、神経をつないでたがを外させるのよ」
「神経を?」
「シジュウが縁をつなぐような感じかしらね」
「ふむ」
「そして、隠したいことを話させてしまう探偵。そう思う」
「過去の箱の鍵とは関係がないのですか?」
「手段は違うと思う」
「箱を展開するのと、似ている気がするのです」
「作用するのが箱じゃなくて神経だと思うの」
「難しいですね」
「シジュウも調べてくださいと言ってたけど」
「言ってたんですか」
「うん、でも、質が違うということをわかっていたのかもね」
「シジュウさんがそうなら、違うのですね」
「そういうこと」
ツヅキはうなずいた。
そして続ける。
「怪盗アーカイブがらみの事件の記録は来ていますか?」
「調べているけれど、来ていないわね」
「そうですか」
「落下の記録を残していくから、そこを時々調べているけど」
「けど?」
「さすがに限界はあるわね」
ルカはため息をつく。
ツヅキはうなずく。
「俺も調べてみます」
「過去の箱を壊さない程度にね」
「わかりました」
ツヅキはうなずくと、席に戻った。

カラットは幸せそうに寝ている。
ヤンは席に戻って何かを調べている。
ルカはヤンの入れてくれたジャスミン茶を飲んだ。
気分が落ち着く。

ふいに、端末に連絡が入った。
ルカは銀色の端末をから記録をとる。
「ヤン、カラット、ツヅキ、仕事よ!」
ヤンが立ち上がる。
カラットが起きる。
ツヅキがジャケットを羽織る。

「ヤンは車を出して、カラットとツヅキは私と装備課へ」
「了解」
「らじゃ」
「了解しました」
待機室はばたばたとして、やがて静かになった。
春の頃の、いつもの仕事である。


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