箱物語(仮)47


車を出た彼らは、ターゲットを探して走り出す。
被害者の近くにいるだろう。
被害者の家の近くまで走る。
ルカは道行く人を見る。
みんな過去の箱を生やして見える。
ヤンもカラットも、ツヅキも反応で見ているはず。
頼りになるのはこの目。
たとえ妄想であっても、
過去の箱が妄想であったとしても、
その記録にしたがって生きている。
ルカはぐるりと辺りを見る。
遠くで何かがうごめく。
一瞬なんだかわからない。

ジー……ジャッ!
ルカの耳にいつもの音が届く。
カラットが停止銃の装填をした。
ルカは箱の目を強くする感じをする。
うごめくそこをじっと見る。
過去の箱がうごめいている。
明らかにおかしくなるほどの記録を抱えて。
「見つけましたか?」
ヤンがたずねる。
「あの記録の量、間違いないわね」
ルカは立ち止まる。
過去の箱が暴れている。
周辺に記録を撒き散らしいてる。
壊れる寸前の足掻きだ。
過去の箱が壊れれば、
持ち主の人間も死ぬ。
あまりに多すぎる記録を抱えて、
ストーカーをしていた人間が死のうとしている。
「ツヅキ」
ルカが呼びかける。
「端末をシジュウの魔術箱につなげておくわ」
ツヅキはルカから端末を受け取る。
銀色の細長いものだ。
「縛糸で過去の箱を捕獲、そして、違法記録をシジュウに」
「了解」
ツヅキは軽くうなずく。
「カラットはいざというときのために、ツヅキのサポートを」
「了解」
カラットが停止銃を構える。
ヤンは拳箱を設定する。
ルカも展開刀を持つ。

ツヅキが走る。
その手から白い糸。
縛糸だ。
暴れる過去の箱に向けて、
その手を思いっきり振る。
縛糸が過去の箱のあちこちをとらえる。
蜘蛛に捕まった虫のように、
大きく肥大した過去の箱がとらえられていく。
「どうっすかね」
カラットがルカに問う。
「まだわからないわ」
「俺、ツヅキの近くに行きます」
ルカはうなずく。
カラットは走り出す。
「どうでしょうね」
ヤンが問いかける。
「暴発しなければ、これでおしまいのはずよ」
「暴発?」
「圧縮した記録の、一斉解凍。記録がいきなり増える」
「そんなこと…」
「ないとは言い切れない。だからカラットを回したの」
「ないといいですね」
ルカもうなずく。

ルカの目の前で、
ストーカーをしていた人間の箱がおさまっていく。
ルカとヤンが駆け寄る。
ルカが危惧していた暴発もなく、
ツヅキの縛糸を通して、ルカの端末を経て、
違法記録がシジュウの魔術箱に落ちていく。
ルカに見えるのは、
縛糸まみれの人間。
繭のようにも見える。
「ツヅキ、どう?」
「違法なのは全部落としましたけど…」
「けど?」
「このままでは、また同じことをすると思うんです」
「ストーキングを?」
ツヅキはうなずく。
「だから、こいつから感情の一部をとってもいいですか?」
ツヅキは静かに言う。
「違法な記録だけが管轄よ。後は警察にでも任せなさい」
「…そうでしたね」
ツヅキは手を振り、縛糸を収納する。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
「撤収するわよ」
ルカはツヅキから端末を返してもらうと、
彼らは風のように去っていった。


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